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美しい言葉

映画「原爆の子」の静けさ

久しぶりに日本の名作映画を見ようと思ったのですが、あれこれと迷った末に、新藤兼人監督の「原爆の子」を見ることにしました。

この「原爆の子」は、以前に一度鑑賞したのですが、強い感銘を受けたことだけは記憶しているのに、なぜか具体的なシーンが想い出せないのです。

以前、この「原爆の子」を見た時に書いた感想文を、引用しておきます。

現在、新藤兼人監督の映画を連続的に鑑賞しています。

なぜ今、新藤兼人なのか?

まあ、それほど難しい理由はありません。

ただ、もう、ハリウッド映画とか、エンターテイメントの仕掛けがありすぎる映画に飽きてしまったので、そういう「あざとい」戦略のない作品を純粋に楽しみたい気持ちが強いことは確かです。

レンタルでは、返却期限が気になって、じっくり味わえないので、アンソロジーを購入してみました。

年代順に編成されているので、1巻から順番にレビューしてゆきたいと思います。

最初はこの作品です。「原爆の子」。

この映画に出逢えて良かったと、素直に思いました。

抑えた表現には気品があり、時に、神々しいばかりの精神性が、フィルムから立ちあがってくるのを感じました。

こういう映画は、滅多にありません。

原爆の記憶を風化させてはならない、そういう思いを新たにすると同時に、映画という表現形式の偉大さを知りました。

後世に語り継いでゆくべき映画の一つに、この「原爆の子」を加えたいと思います。

最初の数分で、画面に吸い寄せられました。戦後の瓦礫(がれき)。廃墟が、何もかもを語っている…。

モノクロームの映像が、哀しいほど美しい。美しく見せようという気負いがないところが、良いのでしょうか。

陽光が尊いと感じるのと同じように、映像そのものが「ありがたい」と実感できたのです。

音楽も、魂にまで吸い込んでゆくほど、効果的に使われております。

アンソロジーの最初を飾るにふさわしい、純度の高い秀作と言って間違いありません。

確かに、最初に鑑賞した時、感動したはずなのに、なぜか具体的なシーンが想い浮かばないのです。どうしてだろう、と思いつつ、すでに購入してあったDVDをデッキに挿入しました。

見終わって、感想を書こうとしたのですが、なかなか書けません。その後、眠りの浅い日が続いていますが、やはり書いておかないと後悔すると思い、キーボードを叩き始めました。

日本には名作映画が数多くありますが、この「原爆の子」も間違いなく名作映画の一本に入れなければなりません。しかし、制作された動機が、他の名作映画と大きく異なることは強調すべきでしょう。

原子爆弾が広島に投下されたのは、1945年8月6日。映画「原爆の子」が制作されたのが1952年です。つまり、戦争が終結してわずか7年後に制作された映画であることを、忘れてはなりません。

長田新が編纂した作文集「原爆の子〜広島の少年少女のうったえ」が原作となっています。

原爆の子(上) [ 長田新 ]

抑制された静かな調子でフィルムは回ってゆきます。

戦争が終わって、まだ7年しか経っていませんから、広島のまちの映像は貴重です。広島のまちには戦争の傷跡が生々しく残っているけれども、山や川は清く美しく、人々も深い傷を負いながらも、たくましく生きている。廃墟から新しい生命が芽吹き始めていることが感じられます。

モノクロームの映像は眼に沁みるほど美しい。惨たらしい映像が続いたりはしませんし、怖いシーンは少ないのです。全体としては、清らかな映像に仕上がっています。

しかし、監督は美しい映像を撮るために制作しているのではなく、このテーマを描くには、こうした昇華された映像空間を創出するしかなかったのではないでしょうか。

5回どおり鑑賞すれば、5回とも、違った角度から感想を語ることができる映画です。その多面性こそ、この映画の名作たる所以だと私には思えてなりません。いろんなことを、いろんな角度から考えさせてくれる貴重なフィルムだと言えます。

全編で鳴りつづける静けさが、この映画の深さを象徴しているのでしょうか。そして、鑑賞後も、深い静寂が訪れます。荘厳な合唱にも似た静謐。見終わった後に、言葉を発することができるまでに、かなりの時間を要する、稀有な作品です。

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