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本多孝好の小説「眠りの海」を読んだ感想。

今日取り上げるのは、本多孝好の小説「眠りの海」。1994年作。

MISSING (角川文庫) [ 本多孝好 ]

これほど稚拙な小説を久しぶりに読んだ気がする。腐しているのではない。逆だ。

なぜこれほど未成熟な小説が人気を持ちうるのか。それは作者のなかに流れる整列な水のせいだろう。

この小説はミステリというよりも叙情歌である。熱く渇いた砂に水をやれば、砂は音を立てて水を吸い込む。その水に似た不思議な力が、この短編にはあるのだ。

それは凄いことだと思う。誰でも小説を書く者は、人の心に染み込むような文章を書きたいと常に苦心しているからである。

以下、長所と感じた点を列挙しておこう。

●書き出しの情況設定が巧い。読者を引き込む力がある。

●少年の言葉使いが効果的。ぶっきらぼうだが、純粋な少年の人物造形をセリフで見事に表現している。

●海の出し方がいい。黒い海、暗い海、闇の中の海、漆黒の海、とイメージを重ねている。それとラストでの満天の星の出し方も巧妙。

●フォーマットははサンドイッチ型の回想形式である。テーマと題材にぴったりとはまっていると言えるだろう。

●素朴で豊かな情感。この作者はお洒落な都市型のセンスを、ここでは捨てている。朴訥と人生を語る自殺未遂の男にはふさわしい。

表現に古い言い回しが混ざっているところも、珍しいと感じた。けれんみのなさが新鮮である。今の男女の感覚、テレビに出てくる若者のファッションを全く作者は無視している。

●話をずっと聞いていた少年の物語の収束させ方が巧い。いわゆる探偵の謎解きに当たる部分は冴えている。

とても二十代前半の書き手ができる技ではないと言ったら言い過ぎだろうか。そこには転換があり、意外性がある。

●小道具の巧みな使い方。シートベルト、空き缶、眼鏡、シュウカイドウの花。

●さらに少年の謎解きの次に、実は少年は私の両親が死んだ交通事故の原因をつくった子供だったという設定が効いている。

この落ちがないと小説そのものが成立しないと思われるほど、物語を締めている。

●最後に作者のヒューマニズムを挙げよう。ブラックで病的な世界、感情を入れないゲーム性がはびこるミステリというジャンルの中では異彩を放っている。

胸焼けするようなセンチメンタリスムと背中合わせにあることも間違いないが、作者の武器の一つとなるだろう。

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