尊敬語と混同される謙譲語は実に多いのが「おります」と「おられる」。

 

「おる」に丁寧語の「ます」とつけた「おります」、また「おる」に尊敬語の「れる」をつけた「おられる」という表現は、いずれも尊敬語としては適切とは言い難い言葉なのです。

 

おります

 

「おります」を敬語として正しく使えない人が少なくありません。

 

例えば、鈴木という名前の人が銀行で融資を依頼していて、受付の前の椅子に座り、名前を呼ばれるのを待っている時に、行員が「鈴木さん、おりましたら、こちらへどうぞ」と言ったとします。

 

たぶん、それほど気にもかけないでしょうけれど、この行員は、敬語の使い方間違えているのです。

 

「おります」という表現は、あくまで自分がへりくだる時にしか使えません。この場合、鈴木さん自身が、行員の呼びかけに応えて「私はここにおります」と言うのが敬語として正しいのです。

 

行員側としては「鈴木さんは、いらっしゃいませんか」とか「おいでになりませんか」というふうに言わなければ、正しい敬語を使えていることにならないのです。

おられる

 

「おります」よりも誤用の頻度が高いのが「おられる」です。

 

例えば、彼女の自宅を訪問し、彼女の母親がインターフォンに出たとします。

 

その時にあなたはが「佐藤と申す者ですが、花子さんはおられますか」と言ったら、それは「敬語の使い方がなっていない」と叱られても仕方がないのです。

 

「おられますか」ではなく、「お嬢さんは、いらっしゃいますか」「おいでになりますか」と言うようにしましょう。

 

おさらいしますね。謙譲語の「おる」に尊敬語の「れる」をつけた「おられる」は、敬語の使い方として正しいとは言えません。

 

しかし、「おられますか」について、6割前後の人が「敬語が正しく使われている」と回答したという調査結果もあります(「国語に関する世論調査」(文化庁))

 

NHKの文化研究所は「おられますか」という表現について、以下のように述べています。

 

Q
「先生は、おられますか」という言い方は、敬語として間違いでは?

A
「おられる」という言い方は、謙譲語の「おる」と尊敬語の「れる」を一緒に使っているという理由で誤りだとされることもあるため、放送では使わないようにしています。

 

ただ、「おる」の語感には地域差・個人差があり、間違いとまでは言えないでしょう。

 

(中略)

 

「おる」は謙譲語である」という教育的効果によって、「おる」を相手に用いたり、「れる」をつけて尊敬語にしたりすることは正しくないという意識が強くなりつつあるのではないかと指摘する専門家もいます。

 

そのため、通常の放送では、「おられますか」は使わず、「いらっしゃいますか」「おいでになりますか」などの表現を使うようにしています。

 

なお、当ブログ「美しい言葉」では、NHKと同じく「おられますか」は使わず、「いらっしゃいますか」「おいでになりますか」などの表現を推奨しています。