本当に久しぶりに詩想がわいたので、書きとどめておきます。

夏芙蓉

遠い、遠い夏の日
かなたに見える樹々が
風に揺れているのを眺めながら
夕暮れの静けさの中を
独り歩いていた

あの夕暮れは、明るかった
陽は大きく傾きかけているのに
不思議に、草も木も空も
明るく輝いているのだった

陽の光は
全部を照らしだそうとするのではなく
大切なものだけを
一心に照射しようとしていたのかもしれない

あの夏の日
私は自分の名前を想い出せないほど
憔悴しきっていた
それなのに、あの夕暮れ時は
帰りのことを気にせずに歩きつづけていたのだ

風がやんだことに気づいた時
私は足をとめていた
誰かに見つめられている気がして
後ろを振り返った

薄闇の中から、くっきりと浮かび上がり
私の眼を真っ直ぐに見つめていたのは
一輪の花だった

夏芙蓉

薄紅の花は、微笑んでいるかに見えた
その涼しげな眼差し
やわらかで、凛とした姿が
忘れたくないことだけを
鮮やかに想い出させてくれた

あの夏芙蓉に出逢った日から
数え切れないほどの季節がめぐっている

薄紅の花のことを想い出すゆとりさえなく
いくつもの夏を過ごしてきた

あの静けさの中に帰ってゆきたい

夏芙蓉のいる夏を
もう一度、迎えられたら

私は33際の時、大病しまして、半年以上も入院生活をよぎなくされました。その時の夏のことが、ふと今日、帰り道を歩きている時に浮かんできました。

実は、この夏芙蓉については、日記で一度触れているのでした。そのことを自分でも忘れておりました。⇒夏芙蓉は「忍」の花?