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高倉健が主演した最後の映画「あなたへ」の感想


亡くなられた高倉健さんのことが頭を離れないのですが、昨夜、Webのストリーミングで遺作となった映画「あなたへ」を衝動的に見ました。

なかなか順序だてて感想を述べるのが難しい映画ですね。

思いつくままに、感想を書き記してみることにします。

ラストシーン

いちばん良かったのは、ラストシーン。歩いてい行く健さんを横から撮っている映像の長まわし。この映画にふさわしいラストだと感じました。

なぜなら、この映画は、高倉健のために、高倉健を撮るために制作されたといっても過言ではないからです。

主人公の極限まで退(ひ)いた視線

主人公は死んでいるわけではなく、今もなお生きています。しかし、主人公の視線は、死者と生者との中間に立って、現実を見ていると言いたいくらい、この世を限界まで退いて眺めているのですね。

おそらくは、この極限まで退いた視線が、この映画を特殊なものにしているのでしょう。

面白いとか、盛り上がるとか、クライマックスとか、映画の魅力である、そうした抑揚が、この映画にはありません。「黄色いハンカチ」のように、泣けるタイミングさえ、用意してくれていない。

高倉健が演じた主人公は、もう現実には生きていない、死んだ妻のことばかりを考え、今を生きる気力はない。だから、現実を遠い風景のように眺めて暮らさざるを得ないのです。

そうした主人公を誠実に描き出そうとしたら、面白い映画にはなりようがない。この映画の特殊性とは、そういうことだと思うのです。

謎の提示と解決、その意味は?

妻が遺した手紙の謎。それを解くために、主人公は旅に出ます。この映画が盛り上がるためには、その謎の解き方、そして、謎が解けた時の驚きが、視聴者にインパクトを持たなければなりません。

しかし、本来は大事であるはずの、謎解きでさえも、この映画は淡々と済ませてしまいます。

主人公の妻、その手紙にあるメッセージ

夫婦愛の形はさまざまあるでしょう。降旗康男監督が「あなたへ」で描いた夫婦愛は「お互いに自分らしく生きることを助け合う関係」なのかもしれないと感じました。

だとすれば、妻の手紙の意味は、故郷の海に散骨してもらうことで、私は本当の自分らしい自分に帰るから、あなたもこれからの人生を自分らしく生きてください」というメッセージが込められていたことになります。

謎解きにサプライズがないのは、意外性で視聴者を驚かすための謎ではなく、生き方を静かに示すための問いかけ&回答だからです。

豊穣から、静寂へ

「幸せの黄色いハンカチ」が、長い数々の試練をへて、再び夫婦となって生きられる男女の希望の物語でした。だから、映画には豊穣なるオーラがありました。

一方「あなたへ」は、真の癒しを求める人間の迷いと祈りの気持ちが、淡々と描かれています。「あなたへ」の主人公が求めているのは「希望」ではなく、積極的な納得と諦めなのです。ポジティブな諦観を得るための旅を描いた、ロードムービーだと言えます。

再びラストシーン。ありがとう、高倉健さん

正直、最後までこの映画を見て、作品として優れているとか否かとか、どうでもよくなってしまいました。それよりも、何よりも、最後で、じっくり、たっぷり、高倉健さんを見させてくれた映画に感謝したい気持ちになりました。

最後まで凛然と演じられた高倉健さん。ラストシーンで健さんが、未来へ、そして静寂の場所へと向かって歩いてゆく姿を、忘れることはないでしょう。

美しい日本語で書かれた作品をまとめました。

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