仕事の合間をぬって、映画鑑賞をしました。小津安二郎監督の「東京物語」。

 

「東京物語」(とうきょうものがたり)は、1953年に公開されました。監督は小津安二郎、主演は笠智衆原節子

 

東京物語

 

「晩春」(1949年)、「麦秋」(1951年)、「東京物語」(1953年)で原節子が演じたヒロインは、すべて「紀子」という名前がついています。そのため、この3作品をまとめて「紀子三部作」と呼ばれることがあるのです。

 

さて、一言でいいますと、この映画、沁みます。

 

この「東京物語」は、バロック音楽を聴いているような感じのする映画ですね。こんな清らかな旋律が聴こえてくる映像は、世界の映画史上、他にはないのではないでしょうか。

 

世の中は濁流であって、そこに、笠智衆(りゅうちしゅう)、そして、原節子といった登場人物は、濁流に注ぐ、細い清流を想わせます。

 

原節子や香川京子は、鳥でいいますと、鶴か朱鷺みたいでした。原節子は、本当に鶴のように見えてくるから不思議ですね。こんな映画、他にはありません。

 

それにしても、笠智衆の存在感。彼がスクリーンに存するだけで、涙が出てきてしまう。

 

親であることの寂しさを体全身で感じながらも、そのことを名状しがたい深い心で受け止めている、笠智衆の生き方の何と凛としたことか。

 

一方、息子の嫁であるけれども、息子が先に死に、再婚しようとしないでいる原節子が、日本女性の気高さの頂点を極めるように光輝いていました。人間界の垢をかなぐり捨てた、天女とでも呼ぶべきでしょうか。

 

もう、こういう映画は、評論できるようなものではなくて、ただただ、繰り返し見るしかありません。

 

たぶん、何度見ても飽きないですよ。バッハの音楽が人を飽きさせないのと同じこと。

 

正直、この映画に出てくる、原節子や笠智衆のような人物は、現実にはいないでしょう。

 

しかし、魂の清らかな人間がいてくれたら、どれほど救われるだろうか、そういう人間の願望に応えうのが小津安二郎の映画だと思うのです。

 

その意味では、小津映画は、宗教音楽のような厳(おごそ)かさを持っていても、何ら不思議はない、そう感じました。

 

余談ですが、この「東京物語」は、世界的にも高い評価を得ています。

 

英国映画協会発行の「サ イト&サウンド・マガジン Sight&Sound Magazine」が2012年に発表した、世界の映画監督358人が投票で決める最も優れた映画に、小津安二郎監督の「東京物語」(1953年)が選ばれたのです。批評家ら846人による投票でも「東京物語」は3位でした。

 

詳しい順位はこちらをご覧ください⇒史上最高の映画トップ10 (映画監督編)

 

「サ イト&サウンド・マガジン」は英国映画協会(BFI)の発行する映画雑誌で、 が1952年から10年間隔 で毎回、世界の映画監督および映画批評家たちへのアンケート調査により選定・改定しています。

 

要するに「東京物語」が世界一の映画だと評価されたのです。

 

その他の邦画では批評家部門で小津監督の「晩春」(49年)が15位、黒澤明監督「七人の侍」(54年)が17位、同「羅生門」(50年)が26位、溝口健二監督「雨月物語」(53年)が50位にランクインしました。

 

映画はまさに日本人が世界に誇れる文化ですね。

 

日本の名作映画を鑑賞する機会を、若い人たちを巻き込んだ形でイベント化して、広めてゆくべきだと思います。