ビリー・バンバンが唄ってヒットした「さよならをするために」の歌詞がいい。作詞を担当したのは、俳優の石坂浩二である。
さっそく、引用してみよう。
さよならをするために
1 過ぎた日の微笑みを みんな君にあげる
ゆうべ枯れてた花が 今は咲いているよ
過ぎた日の悲しみも みんな君にあげる
あの日知らない人が 今はそばに眠る
温かな昼下がり 通りすぎる雨に
濡れることを 夢に見るよ
風に吹かれて 胸に残る想い出と
さよならをするために
2 昇る朝陽のように 今は君と歩く
白い扉をしめて やさしい夜を招き
今のあなたにきっと わかるはずはないの
風に残した過去の さめた愛の言葉
温かな昼下がり 通りすぎる雨に
濡れることを 夢に見るよ
風に吹かれて 胸に残る想い出と
さよならをするために
「さよならをするために」は、1972年2月10日発売。日本テレビのテレビドラマ『3丁目4番地』の主題歌として、石坂浩二によって作詞、坂田晃一によって作曲され、ビリーバンバンによって歌われた楽曲である。
この歌詞は以前から知っていたが、今回読み返してみて、首筋のあたりから背中にかけて、ざわざわととした感覚が走りぬけて行った。
なぜだろう?
おそらくは、石坂浩二の文才のなせるわざだろう。
これほど優しく、温かく、過去の哀しみを、そして現在のさびしさと切なさを、包み込んでくれる歌詞を私は他に知らない。
言葉が出てきて、次の言葉を連れてきて連なり、また次の言葉が現れては、次の言葉を呼んでくる。
言葉と言葉のつながりに全く無理がない。そういう詩が本当に詩なのではないか。しかし、そういう詩は滅多にあるものではなく、そういう詩に出逢うと、呆気にとられ、心を奪われ、何度も何度も口ずさんでしまう。
それが、この歌詞「さよならをするために」の魅力である。
実は、この詩の意味は難しい…
この詩では、二人の愛する人(過去に愛した人と今愛している人)を歌っていて、三人の関係性を読み解くのは難しいかもしれない。
今の彼女のことだけを歌えばいいじゃないか、ということにはならなくて、過去の恋人の存在がすごく大きくて、過去の愛の暮らしがあるからこそ、今の優しさと哀しさと愛おしさが温かい涙のように込み上げてくる。
ネットで検索すると、見事に三人の関係を言い当てているサイトがあった。なるほどと納得し、安心して「さよならをするために」を読めるようになった記憶がある。
しかし、それはそれで必要かもしれないが、そういうことを明確にしなくても、この詩は味わえる。
その証拠に、意味をきっちり理解する前と後とで、私が「さよならをするために」への感じ方に何の変化もなかった。
素直に味わえばいいと思う。
過去も現在も未来も、すべてを今愛する人の捧げたいという気持ちは、想像すれば感じ取れるはずだから……。