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山本周五郎の小説「雨あがる」を読んだ感想。

山本周五郎の短編小説集「おごそかな渇き」の中に収録されている「雨あがる」を興味深く読みました。

 

「おごそかな渇き改版 (新潮文庫) [ 山本周五郎 ]」の中に収められています。

 

懐かしい。山本周五郎は、私の文章修業における師匠でもあります。20代の頃、山本周五郎の小説を耽読しながら、気に入った表現を大学ノートに夢中で書き写していた時代が懐かしい。

 

甘酸っぱく、また塩辛い、文学青年時代が鮮やかによみがえります。

 

さて、今回読んだ「雨あがる」の感想ですが、あまり書くことがありません。

 

山本周五郎という作家が描き出したい人物像、つまり、世の中と折り合いがつかないけれども、自分の信念や価値観を曲げない、純粋な生き方を貫いている人間が、生き生きと書かれていました。

 

「雨あがる」は映画化もされていて、先日、その感想を書いたのです。

 

こうした人物は、山本周五郎にはたくさん出てくるので、珍しくはありません。

 

ただ、その描き方が、素晴らしい。

 

素晴らしいという意味は、いつも新鮮な発見があるということではなく、むしろ、ワンパターン、マンネリ化の美学が味わえること、それが貴いのです。

 

書き方が、描き方に、浮ついたところが微塵もない。地に足がピタリとついて、着実に、淀むことなく、しかも、上滑りすることなく、温かい筆致で描出されています。

 

そういう意味で、文章が素晴らしいのです。

 

人物造形がうまいだとか、比喩が巧みだとか、そういうこともあります。

 

ただ、それよりも何よりも、山本周五郎の美意識(人生哲学)とぴったり重なる人物像が、山本周五郎自身が呼吸するように、自分の歩幅で歩行するように、ごく自然に描き出されていることに驚嘆せざるをえません。

 

生きることと文章道とが同一になるまで、山本周五郎は小説道を極めた。それが、じんわりと、そして強烈に、こちらに伝わってくる、それが嬉しいと素直に感じました。

 

大いなるワンパターン、気高いマンネリズムにこそ、山本周五郎文学の醍醐味があると、あえて主張したいのです。

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周防正行の映画「それでもボクはやってない」の感想

私の中で21世紀は優れた映画がなかなか出ないと諦めているところがあるので、稀に佳作に出逢うと非常に嬉しいのですね。

 

それでもボクはやってない」は、2007年の作品です。監督は「Shall we ダンス?」であまりにも有名な周防正行です。

 

「Shall we ダンス?」が1996年の作品。実に10年以上の沈黙を破って発表したのが、この「それでもボクはやってない」でした。

 

周防正行監督の映画の特徴である、着眼点の面白さ、作り方の細密さは、この「それでもボクはやってない」にも共通しています。ただし、この映画には「笑い」はなく、あくまでシリアスに作られているのですね。

 

痴漢冤罪事件を扱っていますが、この映画を見ると、被疑者の取調べ方は実際にはこんなにひどいことがされているのか、刑事裁判ではこれほどまでに人権が軽視されているのかなど、驚きを禁じ得ません。

 

周防正行監督は、2002年(平成14年)に東京高裁で逆転無罪判決が出された事件をきっかけに痴漢冤罪(ちかんえんざい)に関心を持ち始めたそうです。その後、地道な取材を継続し、映画に反映させていて、主人公も実在の人物がモデルになっています。

 

大真面目な社会派映画となっていますが、全体に程良い「軽さ」があります。その中で、弁護士役を演じた役所広司のクールさが実に効いていました。役所が演じた弁護士の存在により、作品に芯ができ、程良い「重さ」が保たれていたと思います。

「しあわせの記憶」は渡辺謙と麻生祐未のコラボが際立つ、新しいホームドラマの傑作。

不思議です。渡辺謙が主演する映画やドラマはほとんどすべて永久保存版になってしまうからのようです。

 

今回アマゾンビデオで鑑賞したドラマ「しあわせの記録」も、本当に素晴らしい。

 

何より、ドラマという表現形式そのものが、こういう脚本と役者の演技によってドラマになったことを歓んでいるように感じられるのです。

 

私はドラマで良かった。こういう結実が得られるのだから。シナリオ君ありがとう。役者のみなさんお疲れさま。私は本当にドラマに生まれてきた良かったと、しみじみ感じます。

 

そういうふうな、ドラマの歓びの声が聞こえてきそうなくらい、このドラマ「しあわせの記録」は良かった。

 

渡辺謙が出演した作品、そのすべてが傑作というわけではありません。外国映画では大したことない作品もあるし、邦画の中には駄作もあります。

 

しかし、多くの場合、渡辺謙が出演する映画やドラマは一定の質を保っているように感じられるのです。

 

これには、二つの要素があると思います。

 

渡辺謙を主演に選んだ時点で、製作側がかなり力を入れているので、作品の質は当然高くなる。もうひとつは、渡辺謙の熱演が、作品のクオリティを押し上げているということ。

 

この「しあわせの記録」は、大石静の脚本がまず優れていました。そして、渡辺謙の演技は間違いなし。

 

特筆すべきは、渡辺謙の元妻を演じた麻生祐未の存在。もともと芸達者とは思っていましたが、作品に恵まれると、ここまで見ごとな味を出してくれるとは、驚嘆しました。

 

渡辺謙と麻生祐未の絶妙なコラボレーションが、このドラマの最大の見どころと言って間違いありません。

 

そこに二人の娘、北川景子二階堂ふみが加わり、絶妙な四重奏を展開します。

 

これまで日本で描き継がれてきたホームドラマとは真逆の方法で描かれているのですが、それがまた新鮮であり、真逆でありながら、家族の心理、情愛がきめ細やかに描出されていました。

 

渡辺謙もいいし、麻生祐未もいい。しかも、脚本も演出もいい。

 

新しいホームドラマの傑作がここに誕生した……そう素直に評価したいと思います。