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あはれ花びらながれ をみなごに花びらながれ……三好達治「甃のうへ」より

あはれ花びらながれ をみなごに花びらながれ」で始る「甃のうへ」は、三好達治の代表作であると同時に、日本近代詩が生んだ名作の一つであります。

「甃のうへ」の「甃」は「いし」と読みます。

この詩が人口に膾炙している理由は、教科書に載っていたことと、何といっても覚えやすさでありましょう。

音調も優雅で、しっとりとした情緒に浸ることができます。

さっそく、その「甃のうへ」を引用してみましょう。

甃のうへ

あはれ花びらながれ
をみなごに花びらながれ
をみなごしめやかに語らひあゆみ
うららかの跫音〔あしおと〕空にながれ
をりふしに瞳をあげて
翳〔かげ〕りなきみ寺の春をすぎゆくなり
み寺の甍〔いらか〕みどりにうるほひ
廂〔ひさし〕々に
風鐸〔ふうたく〕のすがたしづかなれば
ひとりなる
わが身の影をあゆまする甃〔いし〕のうへ

ところどころに意味がとりにくい言葉がありますので、少しく注釈を入れてみます。

●「甃」は「いし」と「いらか」、2種類の呼び方を入れています。「甍」には「石畳」という意味のほか「瓦(かわら」という意味もあります。

三好達治が歩いているのが石畳である「甍(いし)」の上で、緑に潤ったお寺の瓦屋根を「甍(いらか)」です。

●「風鐸(ふうたく)」は「仏堂や仏塔の軒の四隅などにつるす青銅製の鐘形の鈴」のこと。

●「寺」は、三好達治によれば、東京音羽の護国寺だとのこと。しかし、詩にする時に浮かんだイメージは、京都の寺々であったと語っているとか。吉田精一「日本近代史鑑賞」で、このことを知りました。

■「あはれ花びらながれ をみなごに花びらながれ をみなごしめやかに語らひあゆみ うららかの跫音(あしおと)空にながれ」と連用形を続けていることで、映像の流れが感じれるとともに、心地よい音調にうっとりと酔えます。

連用形の多様は、三好達治が敬愛した萩原朔太郎の影響であることは間違いありません。萩原朔太郎はその名作「」などに見られるとおり、連用形を多用することで、情念を畳みかけることに成功しています。

以下で、萩原朔太郎の「竹」を引用しておきましょう。

光る地面に竹が生え、
青竹が生え、
地下には竹の根が生え、
根がしだいにほそらみ、
根の先より繊毛が生え、
かすかにけぶる繊毛が生え、
かすかにふるえ。

かたき地面に竹が生え、
地上にするどく竹が生え、
まつしぐらに竹が生え、
凍れる節節りんりんと、
青空のもとに竹が生え、
竹、竹、竹が生え。

しかし、形式上の類似はあっても、詩作品に表出された内容は、三好達治と萩原朔太郎では、まるで違うことは言うまでもありません。

■三好達治が影響を受けた詩人に、室生犀星がいます。室生犀星の「春の寺」に似ていることは確かです。

以下で、室生犀星の「春の寺」を引用しておきます。

春の寺

うつくしきみ寺なり
み寺にさくられうらんたれば
うぐひすしたたり
さくら樹に
すゞめら交り
かんかんと鐘鳴りて
すずろなり。
かんかんと鐘鳴りて
さかんなれば
をとめらひそやかに
ちちははのなすことをして
遊ぶなり。
門もくれなゐ炎炎と
うつくしき春のみ寺なり。

■一つひとつの言葉の美しさも、特筆に値します。

「あはれ」「をみなご」「しめやかに」「語らひ」「うららの」「をりふしに」「瞳をあげて」「翳りなき」「すぎゆくなり」「みどりにうるほい」「すがたしづかなれば」「影をあゆまする」

流れが良いので、さっと読んでしまいがちですが、吟味しますと、一つひとつの言葉は厳選され、限界まで寝られていることに気づきます。

決して情緒のおもむくままに歌われた詩ではなく、理知によって統制された作品です。

■最後の2行「ひとりなる わが身の影をあゆまする甃(いし)のうえ」が実に効いています。

この孤独の哀愁により、この詩の抒情はさらに純化され、読者の胸に深く染み入るのです。

三好達治の詩は、他にも取り上げていますので、以下からお読みください。

⇒三好達治「大阿蘇」

⇒三好達治「乳母車」

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