茨木のり子の「自分の感受性くらい」という詩をご紹介します。

 

自分の感受性くらい

 

ぱさぱさに乾いてゆく心を

ひとのせいにはするな

みずから水やりを怠っておいて

 

気難しくなってきたのを

友人のせいにはするな

しなやかさを失ったのはどちらなのか

 

苛立つのを

近親のせいにはするな

なにもかも下手だったのはわたくし

 

初心消えかかるのを

暮らしのせいにはするな

そもそもが ひよわな志しにすぎなかった

 

駄目なことの一切を

時代のせいにはするな

わずかに光る尊厳の放棄

 

自分の感受性くらい

自分で守れ

ばかものよ

 

自分自身を咤激励する、こういう姿勢の詩は貴重だ。

 

日本の近代詩には、萩原朔太郎、中原中也など、自虐姿勢の優れた詩人がいる。

 

しかし、時代がここまで壊れてくると、自虐はポーズにもならず、洒落にもならず、「死」に直結してしまう。もちろん「自死」である。

 

だから、自嘲や自虐は、今は要らない。余裕が生まれた時に、洒落でやればいい。

 

今は、どんなに無様であっても、武骨であっても、自分自身を咤激励すべき時代なのかもしれない。