美しい詩

三好達治の詩「大阿蘇」は教科書に今も載っているでしょうか?

先日は三好達治(みよしたつじ)の詩「乳母車」をご紹介しました。今回は同じく三好達治の「大阿蘇」を取り上げます。

大阿蘇

雨の中に 馬がたつてゐる

一頭二頭仔馬をまじへた馬の群れが 雨の中にたつてゐる

雨は蕭蕭(しょうしょう)と降つてゐる

馬は草を食べてゐる

尻尾も背中も鬣(たてがみ)も ぐつしよりと濡れそぼつて

彼らは草を食べてゐる

草を食べてゐる

あるものはまた草もたべずに きよとんとしてうなじを垂れてたつてゐる

雨は降つてゐる 蕭蕭と降つてゐる

山は煙をあげてゐる

中岳の頂きから うすら黄ろい 重つ苦しい噴煙が濛濛とあがつてゐる

空いちめんの雨雲と

やがてそれはけぢめもなしにつづいてゐる

馬は草をたべてゐる

艸千里浜(くさせんりはま)のとある丘の

雨に洗はれた青草を 彼らはいつしんにたべてゐる

たべてゐる

彼らはそこにみんな静かにたつてゐる

ぐつしよりと雨に濡れて いつまでもひとつところに 彼らは静かに集つてゐる

もしも百年が この一瞬の間にたつたとしても 何の不思議もないだらう

雨が降つてゐる 雨が降つてゐる

雨は蕭蕭と降つてゐる

簡単に三好達治という詩人について記しておきましょう。

三好達治(1900年~1964年)は大阪府大阪市出身の詩人、翻訳家、文芸評論家。明治生まれの詩人として長生きした人で、代表作「測量船」をはじめとする数多い詩集の他、詩歌の手引書「詩を読む人のために」なども出版しています。

師事していた萩原朔太郎の妹であるアイと結婚、やがて離婚。三好達治とアイとの愛憎劇を題材にして、アイの姪(朔太郎の娘)の萩原葉子が小説「天上の花」(1966年出版)を書きました。

三好達治は佐藤春夫の姪である智恵子とも離婚しており、その詩風からは想像しにくい波乱万丈の実生活を送ったようです。

では、話を「大阿蘇」に戻しましょう。

手元にある新潮文庫の「三好達治詩集」を開いたのですが、この「大阿蘇」は見つかりませんでした。遠い記憶に、鮮明にこの詩は刻まれているのですが、おそらくは教科書で読んだのだと思います。

三好達治が伝えたいテーマと、言葉の流れ、言葉のリズムが、精妙に溶け合っていて、何度読んでも、心地よいと感じる、稀有な詩作品です。

「大阿蘇」に描き出された雄大な空間と悠久たる時の流れが、せちがらい現代社会に生きる私たちに、この上もない癒しを与えてくれます。

長い日本の詩の歴史の中で、これほど、空間と時間を大きくとらえた詩は他にはないでしょう。

物事を、事象を、突き放した視点から見ることが苦手な日本人ですが、三好達治という詩人は、この「大阿蘇」によって極めて尊い業績を残してくれました。

三好達治の詩は、以下の作品も取り上げておりますので、ぜひ、お読みください。

淡くかなしきもののふるなり~三好達治「乳母車」より

あはれ花びらながれ をみなごに花びらながれ……三好達治「甃のうへ」より

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