今回は三好達治の「涙をぬぐって働こう」という詩をご紹介します。
この詩は、三好達治が、戦争が終わった次の年の正月に作った詩です。
1946年の1月ですね。太平洋戦争(大東亜戦争)が終わったのが1945年ですから、戦争の傷がまだ生々しく残っていた頃に作られたのだと容易に想像できます。
では、さっそく、三好達治の「涙をぬぐって働こう」の全文を引用してみましょう。
涙をぬぐって働こう
みんなで希望をとりもどして涙をぬぐって働こう
忘れがたい悲しみは忘れがたいままにしておこう
苦しい心は苦しいままに
けれどもその心を今日は一たび寛(くつろ)ごう
みんなで元気をとりもどして涙をぬぐって働こう
最も悪い運命の台風の眼はすぎ去った
最も悪い熱病の時はすぎ去った
すべての悪い時は今日はもう彼方に去った
楽しい春の日はなお地平に遠く
冬の日は暗い谷間をうなだれて歩みつづける
今日はまだわれらの暦は快適の季節に遠く
小鳥の歌は氷のかげに沈黙し
田野も霜にうら枯れて
空にはさびしい風の声が叫んでいる
けれどもすでに
すべての悪い時は今日はもう彼方に去った
かたい小さな草花のつぼみは
地面の底のくら闇からしずかに生まれ出ようとする
かたくとざされた死と沈黙の氷の底から
希望は一心に働く者の呼び声にこたえて
それは新しい帆布(はんぷ)をかかげて
明日の水平線にあらわれるああその遠くからしずかに来るものを信じよう
みんなで一心につつましく心をあつめて信じよう
みんなで希望をとりもどして涙をぬぐって働こう
今年のはじめのこの苦しい日を
今年の終りのもっと良い日に置き代えよう
この「涙をぬぐって働こう」について調べていて驚いたことがあります。
お二人の方が、ブログでこの詩を引用されていたのですが、ブログ記事が投稿されたのは、いずれも2011年でした。
その年は「3.11」と呼ばれる、あの東日本大震災があった年であります。
つまり、歴史に残る大きな試練が日本を襲った年です。
人類とは不思議な生き物です。とてつもなく巨大な試練にされされないかぎり、貴重な文化財産である「詩」を読もうともしないとは……。
この三好達治の「涙をぬぐって働こう」のテーマは、「励まし」「勇気づけ」による「希望」の付与にあります。
通常ならば、詩のテーマになりにくいのですが、大きな試練のただ中に存する人にとっては、技巧を無視した単純な言葉の方が貴重であり、胸に響くのです。
和洋折衷の華麗な作風の三好達治らしからぬ詩ですが、三好達治の人間味があふれていて、名作として語り継ぎたい作品の一つであります。
そして今、日本だけでなく、全世界に「新型コロナウイルス」という巨大な試練が広がっている。
この国難を乗り越えるために、日本人は、三好達治の「涙をぬぐって働こう」を、大声で朗読しようではありませんか。
日本中に、そして世界中に響き渡るくらい、大きな声で……。
この詩「涙をぬぐって働こう」は「元気・勇気が出る詩10選」の4位にランクイン。