今回は、をさ・はるみの「独り言」と「ハダカ」という詩の二篇をご紹介します。
独り言
わたしが わたしに なるために
じんせいの しっぱいも ひつようでした
むだな くろうも ほねおりも
みんな とおとい けいけんでした
わたしが わたしになれた いま
すべて あなたの おかげです
おんじんたちに 掌(て)をあわせ
ありがとう ございましたと ひとりごと
この詩を知っている人は多くはないでしょう。私も中山靖雄の「すべては今のためにあったこと」という本で知ったのです。
をさ・はるみは、日本近代・現代詩というジャンルから、全くの無縁の人です。
をさ・はるみの本名は長田智龍(ながた・ちりゅう)。鯖江市本町の真宗誠照寺派本山・誠照寺の関係者。生年月日は1906年2月24日、没年は不明。
亡くなった年もわからないというくらい、無名の、あるいは謎の詩人なのです。
まあ、詩人の来歴はわからずとも、詩作品そのものに魅力があればいいわけで、率直に、をさ・はるみの詩は素晴らしいと評価せざるをえない。
現代詩が衰弱に衰弱を重ね、ついに絶滅の危機に瀕しているのは、まさに、をさ・はるみの視点を欠いてきたからだ。
難解な言葉や自己正当化のための詭弁で自己武装し、自分の卑小さをひた隠しに隠してきた現代詩人たちの愚かさは、万死に値すると言ったら関係者に叱られるだろうか。
その一方で、自己の虚飾を捨て、人生の本質を真っ正直にとらえた、をさ・はるみの詩の何と輝いていることか。
「これが、詩だ」というか、ここから再出発する時「詩は、よみがえる」と言いたい。
次にご紹介する、をさ・はるみの「ハダカ」という詩は、まさに日本の詩は、いや日本人は、ここから「やりなおす」べきだと思うのである。
ハダカ
ハダカニナラネバ
人間ノカナシサガ ワカラナイ
ハダカニナルト
人間ノアリガタサガ 身ニシミル
ハダカノヒトニハ
畠ノ土クレモ 尊クオガメル
ハダカノ ヨロコビハ
ハダカニナラナキヤ ワカラナイ
をさ・はるみの詩は、今の日本人に「このままでは日本は滅びます。日本人の心を、いや人らしい真っ当な心を取り戻しましょう」と訴えている、そう思えてならない。