三好達治の「土」という詩をご紹介します。
土
蟻が
蝶の羽をひいて行く
ああ
ヨットのやうだ
ルナールの博物誌を想わせる。蝶についてルナールは「博物誌」で次のように書いている。
二つ折りの恋文が、花の番地を捜している
蟻が蝶の羽を引いてい行くようを「ヨットのようだ」と表現した……これも下手ではない。
しかし、今一つのようにも感じる。
ところで、この詩には疑問点がある。
それはタイトル。
どうして「土」なの?
「ヨット」でいいんじゃないですか?
この詩を探す時に「土」というタイトルを忘れてしまったら、見つかりにくいかもしれない。
思いついた詩のタイトルを検索窓に入れても、この詩は出てきそうにない。
それくらい「土」というタイトルは、地味すぎるし、同時に奇抜だ。
どうやら、この詩は、タイトルと本文を続けて読む、タイトルと本文をワンセットで解釈しないと、三好達治の意図はわからないみたい。
蟻という虫は地味であり、地べた、即ち「土」の上を歩くだけで生活している。羽の生えた蟻は別だが、たいていは、羽を蟻は持っていない。
しかし、三好達治は、「土」から、一気に「海」の世界へ、蟻とともに私たち読者も、連れて行ってくれる。
想像力というのは、本当に素晴らしい。
「土」から「海」を生み出してくれた、三好達治のイマジネーションと表現力に「ありがとう!」と言いたい。