NHKのETV特集の再放送「ガタロさんが描く町~清掃員画家のヒロシマ~」を見ました。
映像の雰囲気から、相当に古いフィルムかと思ったのですが、最初の放送は2013年8月10日。そのことにも驚きました。
さて、この番組の内容ですが、広島に住む画家、ガタロさんの日常を写したドキュメンタリーです。
ガタロさん、その魅力にくぎづけ。
画家でり、詩人でもある、ガタロさんは、現在63歳(2013年8月10日現在)。お父さんは、広島に投下された原子爆弾で被爆しました。今もガタロさんは広島に住んでいます。
広島市の中心部にある基町商店街で、清掃の仕事をされています。奥さんは精神科の看護師さん。この二人の会話が、淡々として、素敵です。
画材も、捨てられたコンテや色鉛筆を使っているのですが、その画力が凄い。技術的に優れているという意味ではなくて、見る者の方に迫ってくる力が半端ではないのですね。
絵のモチーフは、清掃の道具、原爆ドーム、そして人間。
ゴッホの素描集を見た人ならばわかると思うのですが、あの野太い生命感が、ガタロさんの絵にもあります。
生きようとする力、人間への愛(いと)おしみ、そして、怒りに似た激情が、絵からあふれだし、見る者の魂をゆさぶるのです。
画集を買いたいのですが、現在は入手不可能です。放送中に、ガタロさんの画集は売り切れになったとか。それくらい、反響が大きかったのですね。
ガタロさんの目線は低く、偉ぶるところが少しもありません。話す言葉にも作為がなく、聞く者の心を、一瞬のうちに「正直」にしてしまう不思議な力があります。
ガタロさんの生き様に感動し、その絵の力に、ハッとさせられました。
そして、ガタロさんの発する「言葉の力」に、打ちのめされたのです。
ガタロさんの詩を、ご紹介しましょう。「まどえ」という詩。「まどえ」は広島の方言で「返せ」という意味。広島弁では「(壊したものを)元通りにする」ところから、「弁償する」という意味にも使われるとか。
まどえ
黒々の緑ば まどえ
あの田畑を まどえ
樹の一本一本を まどえ
川まどえ
虫ば まどえ
土塊(つちくれ)ば まどえ
小さき気配や予感ばまどえ
おまえの お前自身を わたしの私自身を
人間の人間たる声ば 心ばまどおう
あの子の未来ば まどおう
「まどえ」という言葉の音が、詩に深みを広がりを持たせていると感じました。「まどえ」はその意味を離れて、音として魂に響き、長くこだましていたのです。これが真の言霊なのでしょうか。
最後の2行の「まどおう」が、実に効いていますね。「まどおう」は「取り戻そう」くらいの意味でしょうか。
ガタロさんの発する言葉は、知的ですが、コピーライズされたところ、つまり、作為が全くありません。「演出」や「やらせ」だらけの世の中にあって、ガタロさんの言葉には飾り気がなく、それだからこそ、鋭く、強く、そして、温かい。
本物の言葉に、久しぶりに接することができました。ガタロさん、本当にありがとうございます。
録画をしたつもりが失敗したので、次の再放送も見る予定です。次は9月14日(土)午前0時45分(金曜深夜)なので、すでに録画予約済み。未見の方は、ぜひ、ぜひ、ご覧ください。
(追記)
昨日再放送を見たのすが、今日も、私の心は温かいもので満たされています。生きること、絵を描くこと、そして言葉を発することに、まったく隙間がない人に出逢えたことに、感謝したい気持ちでいっぱいです。