今回は、まど・みちおの「アリ」という詩をご紹介しよう。
アリ
アリは
あんまり 小さいので
からだは ないように見える
いのちだけが はだかで
きらきらと
はたらいているように見える
ほんの そっとでも
さわったら
火花が とびちりそうに…
この世の中で最も大事なものは何だろうか?
それは「命」に違いない。
まど・みちおは蟻を見て「いのちだけが はだかで きらきらと はたらしているように見える」と言う。
要するに、蟻はこの世で最も大事なものを輝かせて生きているわけである。
私は、ハッとした。
蟻に対して、私自身はどうだろう?
昨日を過ごし、今日を暮らし、そして、明日も同じように……。
これで、私は生きていると言えるだろうか。
一番大切なことではない、余計なことに思い悩み、結局は何もできないで一日(の宝物)を取り逃がしているのが、私にとっての人生ではないのか。
一方、蟻はどうか?
余計なものを、限界まで捨て去り、命だけを燃やして、蟻は生きている。
蟻の命の輝きは、火花さえ飛び散らしそうだ。
まど・みちおの詩「アリ」は、人生如何に生きるべきか、その本質をついている、などと口幅ったい言い方はしたくない。
だが、病気療養中の私は今、真剣に、火花を散らして生きたいと切に願っている、それだけは確かだ。
自分の命だけになり切り、完全燃焼するためには、きっと、余計なものを限界まで捨てなければいけないのだろう。
そこに、躊躇や逡巡が、少しもあってはならない。
それにしても、まど・みちおの「アリ」という詩の瞬発力はすさまじい。それを集中力と言っても良いだろう。
一瞬で、私自身を変貌させてしまう、そんなチカラを、この「アリ」は有している。
久しぶりに、一篇の詩に、完膚なきまで打ちのめされ私がいて……同時に生きる勇気を感じているのだ。