アポリネールの「ミラボー橋」という詩を、堀口大学訳でご紹介します。
ミラボー橋
ミラボー橋の下をセーヌ河が流れ
われらの恋が流れる
わたしは思い出す
悩みのあとには楽しみが来ると
日も暮れよ、鐘も鳴れ
月日は流れ、わたしは残る
手に手をつなぎ顔と顔を向け合おう
かうしていると
二人の腕の橋の下を
疲れたまなざしの無窮の時が流れる
日も暮れよ、鐘も鳴れ
月日は流れ、わたしは残る
流れる水のように恋もまた死んでいく
恋もまた死んでゆく
命(いのち)ばかりが長く
希望ばかりが大きい
日も暮れよ、鐘も鳴れ
月日は流れ、わたしは残る
日が去り、月がゆき
過ぎた時も
昔の恋も 二度とまた帰って来ない
ミラボ―橋の下をセーヌ河が流れる
日も暮れよ、鐘も鳴れ
月日は流れ、わたしは残る
佐藤春夫の「秋刀魚の歌」を読んだ後なので、余計にこの「ミラボー橋」にある「文学の香気がうれしい。
この詩のテーマも「人生の悲哀」だが、そこには精神の気高さがあるので、その悲しみのメロディーに酔いしれることもできる。
特に、以下のリフレインが素晴らしい。
日も暮れよ、鐘も鳴れ
月日は流れ、わたしは残る
この二行だけでも、名作と賞賛される価値があると思う。