土が温かい

 

土が温かい

 

小さなスコップで土を耕してから
土の中に両手をそっと差し込んだ

 

じんわりとした温もりが
遠い遠い、過去の記憶を
音もなく連れてくる

 

土に手を入れたまま
そっと瑠璃色の空を見上げる

まだ私が小学生だった頃
課外授業で、花と野菜と果樹を育てた

 

一人の少年が、空を見上げ
息を大きく吐いてから
茶色の土に、スコップを入れた

 

固い土が、割けて、壊れて、やわらかくなる
ふんわりとしてきた土に
水を、肥料を、少しずつ与えてゆく

 

土がやわらかい

 

今と同じように
やわらかくなった土に
両手をそっと差し込んだ10歳の子がいた

 

遠い遠い、小学校の中庭で
静けさに包まれながら土を触っている
少年の息づかいが聞こえてくる

 

知らぬ間に陽が傾き
夕焼けになり
黒い闇に包まれ
夜明けとなり
やがて、陽は中天にのぼる

 

何の力みもなく、自然に、焦ることなく
優しく、時には、祈るように
心の土を耕しているうちに
あの遠い遠い、温もりといっしょになってゆく

 

紫色に染まった空を見上げてみる
やがて来る豊かな実りを、両手に感じながら

 

土が温かい

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