今回は、三好達治の「砂の砦」という詩をご紹介します。

 

映画に「砂の器」という傑作がありますが、ひょっとすると、原作の小説「砂の器」のタイトルは、三好達治の「砂の砦」を松本清張がアレンジしたのかもしれません。

 

ちなみに「砂の砦」は1946年に刊行された詩集「砂の砦」に収められています。

 

では、さっそく、「砂の砦」の全文を引用してみましょう。

 

砂の砦

 

私のうたは砂の砦(とりで)だ

海が来て

やさしい波の一打でくずしてしまう

 

私のうたは砂の砦だ

海が来て

やさしい波の一打でくずしてしまう

 

こりずにそれでもまた私は築く

私は築く

私のうたは砂の砦だ

 

無限の海にむかって築く

この砦は崩れ易い

もとより崩れ易い砦だ

 

青空の下

太陽の燃える下で

その上私の砦は孤独だ

 

援軍無用

孤立無援の

砂の砦だ

 

私はここで指揮官だ

私は士官で兵卒だ

砲手だ旗手(きしゅ)だ伝令だ

 

鷗(かもめ)が舞う

鳶(とび)が啼(な)く

私はここで戦った

 

私はここで戦った

無限の海

無限の波

 

波が来て白い腕(かいな)の

一打ちで崩してしまう

私の歌は砂の砦だ

 

この砦は砂の砦だ

崩れるにはやく

築くにはやい

 

これははかない戦場だ

波がきてさらったあとに

あとかたもない砂の砦だ

 

私のうたは砂の砦だ……

 

いかがでしょうか?

 

テーマは、極めて単純。

 

もろくはかないものに命を賭す、詩人の人生のはかなさを歌った詩です。

 

ただし、1946年に刊行された詩集にあるということは、戦争が三好達治の魂に刻んだ傷が生々しい時期に作られたであろうことは、意識するべきです。

 

戦争は空しい徒労に他なりません。「砂の砦」は「はかさなの象徴」ですが、詩人という人生と戦争の「はかなさ」を象徴していると読解するのが妥当でしょう。

 

ともあれ、この「砂の砦」には、三好達治の得意とする、同じ言葉、同じフレーズの繰り返しがあり、それによって、時間の流れるリズムを巧みに伝えられています。

 

いわゆる「三好達治節」を、この詩の読み取ることは容易です。