今日の風花未来の詩は「森に向かって」です。
森に向かって
待ちに待った
新緑の季節が
やってきた
全身で
春の息吹を
浴びようと
森の見える公園に
やってきた
だが しかし
はつらつとした
生命体の息吹を
感じとるには
私の皮膚感覚は
壊れすぎていた
両脚のしびれは
半端なく
よぼよぼと
歩くのが精一杯
頬をなでる
そよ風の心地よさを
期待していたが
頬までも
こわばっていて
春風を優しく
向かい入れられなかった
抗がん剤
その副作用が
容赦なく
私の五感をしめつけ
人らしく
伸びのびと
生きようとする
まっとうな意欲さえも
圧し潰そうとしてくる
私は力なく立ち止まり
茫然と快晴の空を
見上げるしかない
1分 2分 3分
5分 10分 20分
身動きもせず
空を見上げていると
瑠璃色の空から
降ってくる陽光が
痺れすぎた皮膚を
通り抜け
突き抜け
私という命の正体を
照らし出しはじめた
一年前の
今頃は
どうだったから
病気の
自覚症状もなく
余命3ヶ月宣告も
受けていなかった
でも
体中がしびれて
自由に動けない
今の方が
心は
余計な虚飾を
脱ぎすてられたので
自分らしく
自由に
あるがままでいられる
つまり
自在に動けた一年前より
今の方が
幸せなのだ
私は金縛りを解くように
思いきり身震いした
片足を踏ん張り
大きく息を吐いてから
芽吹いた森に向かって
ゆっくりと
歩きはじめた