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二人が睦まじくいるためには(吉野弘「祝婚歌」全文)

吉野弘という詩人をご存じでしょうか。また、吉野弘の「祝婚歌」という詩を知っておられるでしょうか。

現代詩に少しでも興味を持ったことのある人なら、知らない人はまずいないという詩人であり、詩です。

ただ、現代詩に全く関心がない、詩など学生時代に強制的に読まされた以外には、読んだことがないという人も多いため、吉野弘を知らない人も少なくないみたいです。

馬鹿を言うな、吉野弘ぐらい、知っていると、あなたは答えるでしょうか。でも、今もなお、吉野弘の詩のことを思い出したり、時々、読み返すくらいでなければ、知っているとは言えないのかもしれません。

かくいう私も、吉野弘の詩集は持っていますが、吉野弘の詩集を愛読しているわけではありません。最初は、買って読んだけれども、ピンと来なかったのですね。出逢えなかったというべきでしょうか。

少し恥ずかしいのですが、その後、吉野弘の詩と、強烈に、2度出逢いました。いずれも、予期せぬ、まるで交通事故みたいな出逢いでした。

1回目の出逢いは、会社勤めをしていた頃のこと。社員の結婚式に出席した時、私に文章の書き方を教えてくれた上司が、読み上げた詩が、吉野弘の「祝婚歌」でした。

2回目の出逢いは、山田太一のドラマ「ふぞろいの林檎たちⅣ」で、看護婦役を演じていた手塚理美が、ドラマの中で朗読した詩も、吉野弘の詩だったのです。

この詩もドキッとしたのですが、タイトルを失念してしまったので、また機会を改めて、ご紹介します。※その詩はこちらで紹介しました⇒吉野弘の「争う」を「ふぞろいの林檎たち」で手塚理美が朗読した件

さて、今回ご紹介する「祝婚歌」ですが、ネットで検索しますと、けっこうヒットするので、やはり有名な詩らしいのです。

以下、吉野弘「祝婚歌」の全文を抜き出してみますね。

祝婚歌  

二人が睦まじくいるためには
愚かでいるほうがいい
立派すぎないほうがいい
立派すぎることは
長持ちしないことだと気付いているほうがいい
完璧をめざさないほうがいい
完璧なんて不自然なことだと
うそぶいているほうがいい
二人のうちどちらかが
ふざけているほうがいい
ずっこけているほうがいい
互いに非難することがあっても
非難できる資格が自分にあったかどうか
あとで
疑わしくなるほうがいい
正しいことを言うときは
少しひかえめにするほうがいい
正しいことを言うときは
相手を傷つけやすいものだと
気付いているほうがいい
立派でありたいとか
正しくありたいとかいう
無理な緊張には
色目を使わず
ゆったり ゆたかに
光を浴びているほうがいい
健康で 風に吹かれながら
生きていることのなつかしさに
ふと 胸が熱くなる
そんな日があってもいい
そして
なぜ胸が熱くなるのか
黙っていても
二人にはわかるのであってほしい

確かに、良い詩ですね。上の最後の五行は、書けそうで書けないと思います。

ただ、ここで私が強調したいのは、この詩を選び、式場で朗読した、私の上司の行為の素晴らしさです。詩集を取り出して読むのではなく、和紙に筆でしたため、それを折りたたんだものを広げて、朗読し終えた後に、それを新郎新婦に手渡したのでした。

この上司の行為によって、吉野弘の「祝婚歌」は、一生忘れられない詩となりました。

名作を語りついでゆくには、教科書に採用するだけでは足りません。日常生活のシーンで、誰かが、粋な演出により、詩の素晴らしさを伝える必要があるのではないでしょうか。

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