金子みすゞの「このみち」という詩をご紹介します。
このみち
このみちのさきには、
大きな森があろうよ。
ひとりぼっちの榎(えのき)よ、
このみちをゆこうよ。
このみちのさきには、
大きな海があろうよ。
蓮池(はすいけ)のかえろよ、
このみちをゆこうよ。
このみちのさきには、
大きな都があろうよ。
さびしそうな案山子(かかし)よ、
このみちをゆこうよ。
このみちのさきには、
なにかなにかあろうよ。
みんなでみんなで行こうよ、
このみちをゆこうよ。
【注釈】二連目の「かえろ」は、蛙のこと。
童話や童謡の世界では、直物や動物が、人と同じような感情を持ち、泣いたり笑ったりすることは珍しくありません。
あの有名なミュージカルにもなった「オズの魔法使い」には、ドロシーという名の少女のほかに、子犬、案山子、ブリキの木こり、ライオン、魔女、オズの魔法使いなどが登場します。
金子みすゞの詩「このみち」には、「榎」「かえろ」「案山子」が登場。
それらは、あたかも、人と同じような感情を持っていて、ミュージカルに登場するキャラクターのように動き回れそうに描かれています。
「このみち」に出てくるキャラクターは、孤独だったり、広い世界を知らなかったり、寂しそうだったりするのですが、金子みすゞは、次のように励まします。
このみちのさきには、
なにかなにかあろうよ。
みんなでみんなで行こうよ、
このみちをゆこうよ。
テーマは「未来の希望」に向かって「旅立つ」ための「勇気」ですね。
簡明な表現の中に、人生の辛苦を知った者の限りない優しさと、愛情が込められていて、明るく前向きな気持ちになれました。
「このみち」は、私たちにとっては「励ましの歌」ですが、金子みすゞにとっては「祈りの詩」なのだと直感したのは私だけでしょうか。
童話(童謡)でしか表現できない世界、このメルヘンの国こそが、金子みすゞ自身の魂が棲み得た唯一の世界だったのだと思います。