立原道造の「夢みたものは……」というをご紹介します。

 

夢みたものは・・・・

 

夢みたものは ひとつの幸福

ねがったものは ひとつの愛

山なみのあちらにも しずかな村がある

明るい日曜日の 青い空がある

 

日傘をさした 田舎の娘らが

着かざって 唄をうたっている

大きなまるい輪をかいて

田舎の娘らが 踊をおどっている

 

告げて うたっているのは
青い翼の一羽の 小鳥

低い枝で うたっている

 

夢みたものは ひとつの愛

ねがったものは ひとつの幸福

それらはすべてここに ある と

 

立原道造は、この詩「夢見たものは・・・・」で、自分自身がねがう理想の世界を、描き出した。

 

それは桃源郷か、一つのメルヘンか、いや、そこは「天国」と呼ぶべきだろうか。

 

立原にとって満ち足りた世界、そこになくてはならいないのは、静かな村、明るい休日、輪になって踊っている天使たち、青い空と青い小鳥……、そしてそこには、幸福と愛、夢と願い、それらのすべてがある。

 

立原道造は、現実、つまり、この地上界に生息しながらも、自由に天国に行けて、そこから地上界を眺め、夢のような、幻のような、この世とは思えない美しい世界を生み出した人だと思いたくなる。

 

「夢はいつもかへつて行つた 山の麓のさびしい村に」と立原道造は「のちのおもひに」で歌ったが、それは天上に棲む人が抱く、地上への郷愁なのかもしれない。