渡辺謙が主演している映画とドラマはすべて見ようと思っているのですが、うかつにもこの映画「明日の記憶」は未見でした。というか、かなり前に見ようとして途中で挫折していたのです。
今回は、挫折どころか、最後までのめり込んで鑑賞できました。
20006年の映画。監督は堤幸彦。アルツハイマー病にかかった夫とその妻の物語。原作は荻原浩の同名の小説。
似たような映画やドラマは少なくありませんが、その中でもかなりシリアスに描かれた映画です。
症状が次第に重くなってゆく過程が緻密に描かれていて、時に見ているのが辛いこともありました。
当然かもしれませんが、この映画では、一つの解決策や結論とかは明らかにはされません。
アルツハイマー病は現在の医学では治すことはできません。自然と和合するように、アルツハイマー病にかかったことを運命として受け入れる、そのことだけが唯一の救いであると、静かに語っているとラスト20分間を見て感じました。
前半の広告代理店など現代の都市文明が活写され、ラストでは夫婦が大自然に抱かれ、そこに溶け込んでゆくように描かれているのは、見事でしたね。
ただ、この映画「明日の記憶」では、夫役の渡辺謙も、妻役の樋口可南子も、誰も、悟りめいたことは言葉にしません。最後まで、妻は夫の症状の悪化に戸惑い続けるし、夫も無力にも病気の進行に押し流されてゆきます。
そうした、言葉で説明していないことが、この映画「明日の記憶」の映画としての完成度を高めているのではないでしょう。
当然、こうした映画では、役者の高い演技力が不可欠となります。渡辺謙の迫真の演技が素晴らしいのはもちろんですが、樋口可南子の抑制の効いた(気負いのない)繊細な表情の作り方は秀逸でした。
渡辺謙は壊れてゆく過程をリアルに演じているのに対し、樋口可南子は壊れてゆく夫の変化に反応する妻の心情の揺れを表現しています。
そのように考えると、本当の主演は渡辺謙ではなく、樋口可南子であることに気づいたのでした。
ともあれ、渡辺謙と樋口可南子の演技が堪能できるだけでも、この映画「明日の記憶」は見る価値があると言えるでしょう。