金子みすゞの詩「お乳の川」

美しい詩 - 金子みすゞ
この記事は約 2 分で読めます ( 約 828 文字 )

金子みすゞの「お乳(ちち)の川」というをご紹介します。

 

お乳の川

 

なくな、仔犬よ、

日がくれる。

 

暮れりや

母さんゐなくとも、

 

紺の夜ぞらに

ほんのりと

お乳の川が

みえよもの。

 

この詩によって提示される状況は、読んでのとおり、絶望的な状況です。

 

母親から離れた仔犬の気持ちになってみると、切ないやら、哀しいやらで、夕暮れ時の寂しさが、身につまされます。

 

ところが、「母さんゐなくとも」に続く、最後の連では、一転、ポジティブな調子に変わるのですね。

 

前半と後半で、ガラッと、雰囲気が変わるのは、金子みすゞの詩の特徴の一つ。

明るく歌ったところで、状況は変わりません。変わらなくても、美しい天の川(お乳の川)が見れるじゃないか、と金子みすゞは、仔犬を励まします。

 

おそらくは、この時、金子みすゞは、自分自身をも激励しているのでしょう。

 

母乳も飲めずにお腹をすかせている仔犬に対し、天の川をお乳の川に例えて(比喩を用いて)励ましてしまうところが、「みすゞ節」ですね。

 

何とも、優しく、何とも、はかない。

 

あまりに有名ではない、この「お乳の川」は、辛い人生を生きつつも、生きとし生けるものへの愛情を失わず、利他愛の詩を書き続けた金子みすずらしい、隠れ名作と呼ぶべきでしょうか。

 

金子みすずらしいと言えば、金子みすゞが得意とする技法も、ここでは存分に活用されています。

 

この詩「お乳の川」で使われている修辞法は、倒置、比喩、視点の移動、対比、擬人法です。

 

中でも、視点の移動と対比は鮮やかに決まっています。

 

仔犬という極小の視点から、空という極大への視点への移動と対比が実に効果的。

 

もちろん、仔犬も擬人法によって、人の同じ感情を持っているように描かれているので、ごく自然に、私たち読者は、この詩に感情移入できるのです。

 

この詩「お乳の川」の最大の魅力は、金子みすゞの愛情の純粋さに他なりません。生きとし生けるものを慈しむ、みすゞの優しい気持ちが、私たちの心にしみるのです。

 

金子みすゞの詩のその他の詩はこちら

関連記事
  • 栗原貞子の詩「生ましめんかな」

    栗原貞子の詩「生ましめんかな」

    今回は、栗原貞子の「生ましめんかな」という詩をご紹介します。生ましめんかなこわれたビルディングの地下室の夜だった。原子爆弾の負傷者たちはローソク一本ない暗い地下 ...

    2023/03/07

    美しい詩

  • 小林一茶の有名な俳句

    小林一茶の有名な俳句

    小林一茶の代表的な俳句をご紹介しましょう。雪とけて村いっぱいの子どもかな雀の子そこのけそこのけお馬が通る 我と来て遊べや親のない雀 涼風の曲がりくねってきたりけ ...

    2023/02/15

    美しい詩

  • 長澤延子の詩「告白」

    長澤延子の詩「告白」

    長澤延子の「告白」という詩をご紹介します。告白真紅なバラがもえながら散ってゆく日忘却の中から私をみつめる冷ややかな眼差(まなざし)しを知った夏の最中(さなか)が ...

    2022/03/18

    美しい詩

コメント 3
  • 2023/01/17 12:08

  • 2023/01/17 12:09

    ちょっと下品ですね

  • 2023/05/07 20:33

    ギリシャ神話のミルキーウェイを知っていただけでは?

コメント投稿

コメント

お名前

メールアドレス ※公開されません

サイトアドレス