言葉の魅力を再発見するとともに、文章力の向上を目指す「言響(こだま)プロジェクト」を開催したのは、2011年です。参加いただいた方には、自分が感動した文章、美しいと感じた文章などを、朗読(音読)していただき、それを録音して繰り返し聴くという勉強法をご紹介。
ご自分で朗読するという行為により、また、その音を聞くことで、言葉の流れ、リズムなどを、体得できるのです。
耳の良い人は、言葉のリズムに敏感です。そういう人は、リズミカルな文章を簡単に書けてしまうもの。
そこで、この記事では、朗読を聴くと美しいと感じる名文をご紹介することにします。
文章修業は長くて、孤独なものです。時には、趣向を変えた試みも必要でしょう。もちろん、耳で優れた文章を感じことは、たいへん有意義なことでもありますので、気分転換をかねて、名作を音で味わってみてください。
名文にも種類があります。朗読に適しているのは短い作品です。その意味で、短編小説の名作から聴き始めるのが無難でしょう。
文章を読んで良いなぁと感じても、朗読を聴いた時に、それほどでもない文章があります。言葉の組み合わせが、活字を読んだ時に効果をあげているけれども、音に変換した時には、リズム感が悪い文章はあるものです。
ですから、名文と一口に申しましても、朗読に適した名文と、朗読には向いていない名文があると言えます。
今回ご紹介するのは、もちろん、朗読を聴いた時に心地よい、また美しいと感じる名作。
朗読を聴いて美しいと感じる文章を、以下のタイプに分類してみましょう。風花独自の分類法です(笑)。
1)耽美的で人を酔わせる名文
2)軽妙でリズムの良い名文
3)端正で無駄のない理知的な名文
4)神秘(幻想)的で想像力を呼び覚ます名文
5)臨場感あふれる描写に優れた名文
今回ご紹介する作品はこれ。
山月記オーディオブック
販売サイトで簡単にダウンロードできますから、CDのように到着を待つ必要もなく、すぐに聴けるのも良いですね。またiPhoneで電車の中や、ちょっとした待ち時間に聴けるのも嬉しいかぎり。名作文学を聴くこと、美しい文章が、にわかに身近なものになります。CDと違って安価で購入できるのです。
高校の現代国語で学んだという人も多いのではないでしょうか。中島敦の名作であり、ごく短い作品なので、朗読を聴くのに適しています。時間はわずか21分ですから、集中力が途切れる心配もないでしょう。
上の名文のタイプから申しますと、1、4、5に該当します。つまり、幻想的で、臨場感にあふれ、怪しげな美に酔いしれることができるのが「山月記」なのです。
「山月記」の朗読は、実はさまざまなバリエーションがあります。いろいろなバージョンを聴きましたが、今回ご紹介している、江守徹さんの朗読が、もっとも豊かに「山月記」という小説世界の魅力を引き出していると感じました。
しかし、実は私にとって「山月記」の最高の朗読者は、高校時代の現国の先生です。あの先生の独特の演出だと思うのですが、教室に入ってくると何も言わずに教科書を広げて「山月記」を朗読し始めたのです。
素晴らしい朗読でした。全身、総毛だつほど、迫力に満ちた、私にとって一生に一度の朗読だったのです。
言葉の力、文学の奥深さ、音で聴く言葉の響きの美しさを教えてくれたのは、高校時代の恩師でした。江守さんのようには洗練されてはいなかっただろうけれど、一生忘れられない、朗読劇場となりました。
他にも、いろいろとご紹介したいのですが、今回は、江守徹さんの朗読による「山月記」のみとさせていただきます。