風花未来の今日の詩は「眠りの森」です。

 

眠りの森

 

抗がん剤の副作用がきつい時には

起きてはいられない

目覚めてはいられない

 

人を人でなくする混沌

滅亡への怪しい不協和音に

耐えつづけられないから

横になる

 

横になるとすぐに眠りに落ちる

やがて眼が覚めるのだが

少し起きてぬるま湯を飲み

また横になると

またすぐに眠りに落ちる

 

まるで眠り病だ

何時間でも眠れる

眠らないではいられない

そういう薬物で造化された

私ではない私でいる時間帯

その悪魔的な時空間を

「眠りの森」と名づけたい

 

「眠りの森」で見る夢には

天使はあらわれない

姫も小人も

誰も見えない

そもそも「眠りの森」では

夢すら見れないのかもしれない

 

何もおぼえていない

「眠りの森」に沈んでいる時のことを

たぶん怖ろしいことが

吹き荒れすぎていて

記憶の回路が消滅しているのだろう

 

目覚めて体を起こしていると

悪寒と火照りの

不連続攻撃を受けるので

また横になるしかない

 

また落ちてゆこう

記憶のない闇に

私ではない私がいる場所に

音もなく

吸い込まれてゆこう

「眠りの森」に

 

だが

もしも

「眠りの森」で目覚めたら

私はどうなるのだろうか

 

とにかく副作用がきつい時は、寝ているしかありません。実際に、いくらでも眠れます。

 

だから、詩の中では「眠りの森」と、眠っている状態のことを表現しているのです。

 

要するに「眠りの森」が詩に出てくる時は、副作用が最も強い状態だと思っていただければ幸いです。

 

「眠りの森」は以下の詩にも出てきますので、ご一読くださり、今回の詩と比べていただけると嬉しいです。

 

眠りの森の小さな天使