川越綴子の詩「変化」

美しい詩
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川越綴子の「変化」というをご紹介します。

 

変化

 

一夜明けて何も変っていない。

陽は高く上がり、昨日と同じ蝉が鳴いている。

何も変っていない。

ただ一日の日が過ぎただけ。

そして、昨日から言えば、

明日という日になっただけ。

部屋の物すべてが、

見つくして使いつくした物ばかり、

一夜明けても何も変っていない。

しかし私は変わって、

一人の女になっていた。

 

部屋のすべてのものは変っていない。

陽の高さも、蝉の声も、

ただ、私ひとりが変っていた。

 

川越綴子は1940年生まれ。詩人。染色デザイナー。

 

この「変化」は、中学生の時に書いたらしいが、詩は大人になっている。「大人」という意味は、自己の客体化、つまり、自分を客観的に見つめ、見えた自己の変化を、何も変っていない外界との対比によって冷静に描出した、安定した筆致を指す。

 

説明し過ぎず、また書き足りないこともない、ほど良い長さとなっているのも良い。

 

劇的な肉体と精神の変化、それは人生の残酷なまで瞬間である。

 

その残酷な瞬間を、感情におぼれることなく、冷め切った目で見つめ、安定した文体で表した手腕は、子供と大人が同居する少女の魔性さえ感じさせる。

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