「雨にも負けて」という詩をご存じだろうか。宮沢賢治の「雨ニモマケズ」ではない。
テレビドラマの中で朗読された、作者が明らかではない詩である。
ヒロインが口ずさむ詩が効いていて、いいなあと素直に感じた。
第5話に出てくる、以下の詩。
さっそく、引用してみよう。
雨にも負けて 風にも負けて 人生に負けて
背中を丸めて去っていく人を 誰かが笑う
一生に一度 誰からも褒められることのないまま
咲いて枯れた花を 誰かが笑う
その人の夢も あまたある星の輝きには負けると
その人の人生も 過ぎ行く時の流れには負けると
誰が 笑えるのだろう?
宮沢賢治の「雨ニモマケズ」のパロディだとはわかっていても、菅野美穂の呆(ほう)けたような朗読が、切なく、やるせなく、録画を戻して、繰り返し聴いた。
シナリオは「同・級・生」「東京ラブストーリー」「それでも、生きてゆく」「最高の離婚」などを代表作とするの坂元裕二が担当。
だということは、この「雨にも負けて」という詩は坂元裕二が書いたのだろうか。
「雨にも負けて」という一見ネガティブな表現の中に、不思議な安らぎがある。この「安らぎ」こそ、現代人が無意識のうちに希求しているものかもしれない。
ところで、「雨にも負けて」という表現は、太陽族というバンドの楽曲「doromizu」の歌詞に出てくる。
あめにもまけて かぜにもまけて
それでもいいよといえる そういうものにわたしはなりたい
あめにもまけて かぜにもまけて
すべてはそこからじゃないか そういえるものにわたしはなりたい
これはもう、励ましの詩以外の何ものでもないだろう。
以下、テレビドラマ「愛し君へ」について語りたい。
「愛し君へ」。これは映画ではなく、テレビドラマ。主演は菅野美穂と藤木直人。共演は、伊東美咲、玉木宏など。2004年4月19日から6月28日まで、フジテレビ系の「月9」枠で放送された。
映画「解夏(げげ)」と同じ原作のドラマ化だが、映画よりも遥かに完成度が高い。「解夏」は、2002年に刊行されたさだまさし著の短編小説集。
「愛し君へ」(あらすじ一部)
新米小児科医として元気いっぱいに生きる主人公、友川四季(菅野美穂)。しかし、四季が恋に落ちた男、安曇俊介(藤木直人)は、自らの視力をやがて失う運命にあった……。
かなり前に、たまたま再放送で、チラッと見て、はまってしまった。
このドラマのキーワードは「繊細さ」だろうか。
日本人ならではの柔らかで壊れやすい叙情性が描かれている。もちろん、それを担うのは、ヒロインの菅野美穂であることは言うまでもない。
主人公の「四季」という名前も良かった。前半のシナリオは見事としか言いようがない。
演出も緊密で隙がなかった。
ところが、後半にはいって、ガタがきた。ありがちな辻褄あわせやご都合主義が頻発した。
それもあって、なかなか最後まで見られなかったのかもしれない。
しかし、ラスト近くでは、また盛り上がり、また完成度を高めていた。
全部で11話だが、長いので、どうしても、全部が最高とはゆかないだろう。
純愛ブームに乗ったツクリだとはわかっているが、ていねいな気配りが、ところどころに息づいていて、まだドラマもいいかも、と思わせてくれた。
映画の「解夏」は最後まで見れないほど、稚拙な出来だったので、余計に関心させられた。映画ファンの方には申し訳ないが……。
主演の男優、女優とも、生涯の代表作となるに違いない、そんな気がする。
ヒロインの少し病んだ感じの演技は、印象に残った。元気女子より、暗い役の方が菅野美穂は合っている気がする。
やりすぎ、つくりすぎのハリウッド映画を見るよりは、ずっとこちらのほうがオススメである。