「中山七里」という映画をご存知だろうか。実は私も良く知らなかった。
調べると、原作は長谷川伸(はせがわしん)の戯曲で、時代劇のいわば定番であって、これまでの何度となく舞台化、映画化、テレビドラマ化されてきた「股旅物」の傑作だという。
で、今回私が観たのは、1962年に公開された映画である。
主演は市川雷蔵である。
ただの大衆時代劇映画ではない、と感じた。
内容はいかにも、時代劇の定番で、それ以上のものではない。
しかし、しかし、である。
市川雷蔵の存在感と演技が、作品に深い陰影を刻み、気品高い香りを放つ、文芸作品にまで高めているのだ。
一人の男の運命を描き出し、心理の揺れ、葛藤をも表出している。
死別した恋人に瓜二つの女性に、心をひかれるという「愛のカタチ」が鮮明に描写されていた。
そして、美しい映画にまで昇華されている。
通俗に堕するか、薫り高い格調を醸し出すか。それは監督の手腕にもよるが、主演の存在も大きい。
映画「中山七里」の持つ、文芸作品の気品と美しさが観る者を酔わせる。市川雷蔵でなければ、この格調は出なかったであろう。
だから、この映画「中山七里」は、市川雷蔵なくしてはあり得ない。