今回ご紹介するのは、ルキノ・ヴィスコンティ監督の「白夜」です。

1957年・伊。監督:ルキノ・ヴィスコンティ
原作:ドストエフスキー。
出演:マルチェロ・マストロヤンニ、マリア・シェルほか。
ドストエフスキー初期の短篇を、十九世紀のペテルブルグから現代イタリアの港町に舞台をかえて、「夏の嵐」のルキノ・ヴィスコンティが監督、彼と、同じく「夏の嵐」の女流脚本家スーゾ・チェッキ・ダミーコが脚色。

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(あらすじの一部)
イタリアのある港町。ここへ転勤してきたばかりの青年マリオ(マルチェロ・マストロヤンニ)が夜の小路を散歩していると、運河の橋際に立つ一人の少女(マリア・シェル)を見つけた。女は泣いていた。マリオは好奇心にかられ、見知らぬ町での狐独な自分を慰めるためにも、この女に声をかけた。彼女は大きな悲しみに打ちひしがれているかに見えた。マリオは自己紹介をして、断わる彼女を家まで送り、翌晩の再会を約して別れた…

映画の素晴らしさの一つには、別世界に連れて行ってくれる力がある。つまり魔法。こんなに奇麗な幻ならば、いつまでも浸っていたいと思う。

何というセンチメントだろう。映画とはこれほど純粋なものだったのか。雪が降る中、ボートの上で、シェルが両手を空に向けて広げるシーンは忘れられない。

ワンカット、ワンカット、監督の美的センスの非凡さを感じさせる。

キャロル・リードの「邪魔者は殺せ」がモノクロの映像美の最高峰だと自分なりに思っていたが、ヴィスコンティの「白夜」は、黒と白のコントラストを活かすことはもちろん、ハーフトーンの使い方もデリケートで、柔らかな味わいを付与している。

美意識という点では、ヴィスコンティの方がより耽美的だ。と言うより質が違う。
キャロル・リードは映像は硬質である。ヴィスコンティのモノクロ映画は表現力が豊かであり、芸術を謳歌している高邁な遊び心が映像に反映されている。己が才気に浸り、伸び伸びと腕を振るっているのが伝わってくる。
耽溺できる豊穣な才能が羨ましい。

残酷な結末。完璧なエンディングである。

原作を読んでいない人は、映画を先に見ることをお奨めしたい。それほど、このモノクロ映画の完成度と透明度は高い。