今回ご紹介する映画「鉄道員」は、名画という呼称がこれほど似合う作品はない…そう言いたくなるほどの秀作です。
監督は、主演の父親役を演じたピエトロ・ジェルミです。
「鉄道員」
1956年 イタリア
監督:ピエトロ・ジェルミ
出演:ピエトロ・ジェルミ、ルイザ・デラ・ノーチェ、エドアルド・ネヴォラ、シルヴァ・コシナ、カルロ・ジュフレ
戦後イタリアを舞台に庶民の家族愛を少年の視点から描き、
哀切極まりないテーマ曲と共に多くの映画ファンを涙させた永遠の名作。
監督自ら演じる機関士も素晴らしいが、いたいけな眼差しのサンドロ少年(エドアルド・ネヴォラ)の愛くるしさと、純真なモノローグがたまらない。
1956年カンヌ映画祭国際カトリック事務局賞受賞。
'58年には日本でも543館で公開され大ヒットを記録。
その年の「キネ旬」ベストテンの読者部門で見事第1位に輝いた(引用元:Amazon)。
テーマは家族愛。
古典映画としての風格と美意識、高い完成度を有した傑作中の傑作です…そんなありきたりな賛美の言葉がむなしく感じられるほど、この映画は、まさに映画としての確固たる存在美を誇っています。
この映画には抽象的なところが全くなく、庶民の生活を温かな眼差しから映し出しています。
こういう描き方は、映画の王道ですが、実は最も難しいと言えます。
なぜなら、映画としての技術力もさることながら、何よりも人間への尊敬と愛情の豊かさが、フィルムに格調を与えているからです。
言い換えると、制作者の人となり、人間性なくして、生み出しえない、映像美と物語性が、輝いているからです。
映画の方法論を超えた人間としての力と愛を実感させてくれる稀有な名作だと言えます。
ともすれば、ベタベタになってしまいがちなのに、どうして、これほどまでに自然に、作品世界へと鑑賞する側が没入できるのでしょうか?
それは、やはり、優れた映画作品の条件を、総合的に満たした映画だからなのでしょう。
役者の魅力がまず素晴らしい。
子役ば可愛らしい。
頑固で寂しがり屋の父親がいい。
慈愛に満ちた母親の表情は忘れがたい。
美しく薄幸な長女、
頼りのない気弱な長男…。
モノクロームの映像の美しさ。
さりげないけれど、観る者をひくつけるカメラアングル。
そのカメラワークは、人間の視線を想わせるほど自然で、
しかも、人間への愛情があふれている。
哀感ただよう繊細な映画音楽……
以上のように、この「鉄道員」の美点は、あげてゆけばきりがないほどあるのです。
つまり、映画としての総合力が高いということに他なりません。
家族愛をあつかいながら、決してセンチメンタルに流れておらず、ヒューマニズムとリアリズムが、物の見事に融合していると言えるでしょう。
名作映画と言われる作品は多いのですが、完成度が高い上に、観終わった後に、深い寂しさと温もりが余韻として味わえる極めて貴重な映画です。