野村芳太郎が監督した作品ということで、見応えはあるだろうと予測しつつ、映画「震える舌」をアマゾンビデオで鑑賞しました。
見応えがあるどころか、これは傑作です。映画史に残る異色作。病に苦しむ娘役の若命真裕子(わかもり まゆこ)も印象深いのですが、それよりも、子供の両親役を演じた渡瀬恒彦と十朱幸代の演技には鬼気迫るものがあり、圧倒されました。
映画「震える舌(ふるえるした)」は、1980年に公開された日本映画。三木卓の同名小説が原作。三木卓は自分の娘が破傷風菌に感染した時のことを小説として描いています。
破傷風という病気がこれほど恐ろしいものであることを全く知りませんでした。破傷風菌に侵された娘の病状が悪化。生死の間をさまよう状況に。目覆いたくなるシーンが後半まで続きます。
極限状況、修羅場の連続。しかし、途中で見るのをやめる気には一度もなりませんでした。
それは、物語が進行するうちに「この映画は本物だ。役者の演技もすさまじいし、それでけでも賞賛に値するし、最後まで見とどけないと悔いを残すことになる」と感じとったからです。
私は映画をこのよなく愛する者です。映画を愛する者として「この映画は見ないと後悔する」と本能的に直感できる映画は、そうそうあるものではありません。
冷静沈着な主治医役の中野良子も良かった。老教授役の宇野重吉の存在も効いていました。
野村芳太郎といえば、「ゼロの焦点」「張込み」「砂の器」「影の車」「鬼畜」など、松本清張の小説を原作とする映画作品で知られています。
いずれも、人間の心理に鋭いメスを入れ、奥部をえぐり出すような描き方に特徴があるのです。
その中でも、この「震える舌」の迫力は、のけぞるほどでした。演出が少し極端で、オーバー気味ともとれますが、それが映画としての完成度を傷つけていることはありません。
過剰とも言える演出にリアリティを与え、作品としての品格を保ち、最後まで画面に私を釘づけにしたのは、他でもない、渡瀬恒彦と十朱幸代の演技力です。
二人とも、演技力では定評のある昭和の名俳優ですが、それにしても、この「震える舌」での熱演には感服。
ドラマは変化の中にあるといいます。渡瀬恒彦と十朱幸代の豹変ぶりから、映画(優秀な役者が役を演じ切る、それを鑑賞すること)の醍醐味を堪能させてもらえました。
オープニングからラストまで、渡瀬恒彦と十朱幸代の表情の変化を追ってゆくだけでも、画面に没入してしまいます。
そして、この映画「震える舌」のラストが素晴らしい。このエンディングによって、過酷なシーンに耐えてきた私の魂も救済され、最後まで見て良かったと実感しました。