映画「天城越え」を、今回初めて鑑賞しました。
これまでに何度かDVDで見ようとしたのですが、なぜか途中で挫折してしまったのです。
今回は最後まで鑑賞。
完成度の高い映画です。特に田中裕子の演技は濃厚かつ鮮烈でした。
しかし、この映画を私は愛し続け、今後も繰り返し鑑賞するかというと、それは疑問です。
いろんな意味で、昭和の映画です。長く、濃く、原色が似合う、昭和という時代が生んだ映画という感じがしました。
「天城越え」は1983年2月19日公開された日本映画。監督は三村晴彦。出演は田中裕子、渡瀬恒彦、平幹二朗、吉行和子など。
テーマは「性への呪い」。松本清張が何度も何度も書き続けたテーマです。性描写は、どぎついまでに濃厚です。「影の車」でも、少年の性に対する異様な嫌悪感が描かれていました。
少年の吹き出してくる性欲の激しさ。それと同時に膨れ上がる性への嫌悪感を軸として、見事にミステリが構築されています。しかし、それだけです。興味をそそられるテーマですが、その先、その奥が見たかった。
松本清張の小説を映画化した作品はたくさんありますが、それらの中の傑作と比べると、何かが足りません。筋書きは面白いけれども、人生の深部が描出されているかというと、それはむしろ希薄です。
この物語の中で、実は最も重いのは、殺人を犯した少年がこれまでどのような心の葛藤をして生きてきたかということでしょう。
その葛藤がどのような形で物語の中にあらわれるのか、その心理を微細かつドラマチックに描いてこそ、本当に優れた映画になると感じました。
殺人を犯した人間の葛藤が鮮やかに描かれた傑作が「砂の器」です。
「天城越え」も、良い映画ですが、テンポの悪さが、濃い人間ドラマを、くどくどしく感じさせている点が残念でした。