三谷幸喜が監督と脚本を担当した映画「記憶にございません!」を見た。
傑作というより、快作である。暗い世の中に光を与える、というと大げさかもしれないが、暗く落ち込んだ気持ちを明るくしてくれることは間違いない。
「記憶にございません!」(きおくにございません!、英題:Hit me Anyone One More Time)は、2019年9月13日に公開された日本映画。監督・脚本は三谷幸喜、主演は中井貴一。
笑えた出演者は、吉田羊、 小池栄子、 田中圭など。
その他、芸達者な役者が多く出演していて、与えられた役まわりと手堅く演じていた。ただ、すごいと唸るほどの見せ場はなかった。
私は三谷幸喜の監督作品だと知らず見た。三谷幸喜の映画はすべて見ていると思うが、三谷幸喜映画だと気付かなかった。
それくらい、三谷節が抑制されている。演歌でいうなら、三谷流のこぶしまわしを抑えているように感じられた。
理由はわからない。くどいまでの「ひねり」は封印され、かなりスッキリとした演出となっている。
三谷幸喜の映画は泣けない。喜劇だからではない。知的過ぎるのだ。視聴者を泣かせるには、三谷幸喜自身がテーマと距離をおきすぎている。
だがそれは、作品としてのキズではない。その知性的な笑い、それが三谷幸喜ワールドだからだ。
今回思ったのは、三谷幸喜の喜劇は、純粋に芸を楽しむ世界であり、一種の芸術至上主義だということだ。
社会的な味付けは入っているが、それは、人間の欲を際立させるための装置に過ぎない。
チャップリンも自身の知性の高い、冷徹な人間観察のために、喜劇を作りつづけた。
しかし、晩年には「ライムライト」という悲劇を撮った。
三谷幸喜は、いつか喜劇を作るのだろうか。それは、わからない……。