栗原貞子の詩「生ましめんかな」

今回は、栗原貞子の「生ましめんかな」という詩をご紹介します。

 

生ましめんかな

 

こわれたビルディングの地下室の夜だった。

原子爆弾の負傷者たちは

ローソク一本ない暗い地下室を

うずめて、いっぱいだった。

生ぐさい血の匂い、死臭。

汗くさい人いきれ、うめきごえ

その中から不思議な声が聞こえて来た。

「赤ん坊が生まれる」と言うのだ。

この地獄の底のような地下室で

今、若い女が産気づいているのだ。

マッチ一本ないくらがりで どうしたらいいのだろう

人々は自分の痛みを忘れて気づかった。

と、「私が産婆です、私が生ませましょう」

と言ったのは さっきまでうめいていた重傷者だ。

かくて暗がりの地獄の底で新しい生命は生まれた。

かくてあかつきを待たず産婆は血まみれのまま死んだ。

 

生ましめんかな

生ましめんかな

己が命捨つとも

 

タイトル「生ましめんかな」の意味

 

まずは「生ましめんかな」というタイトルの文法的な意味からご説明しましょう。以下は、ネット辞典から引用。

 

「生む」と「産む」の意味の違い

【生む】 新しく作り出す

【産む】 母体が子・卵を体外に出す

 

「生む」も「産む」も、どちらもウムと読む同訓異字の語。

 

「生む」は、それまで無かったものを新たに作り出す、生じさせるという意味です。誕生、生成、発生など。

 

「産む」は、母体が胎児や卵を体外に排出すること(分娩)を意味する。出産、産卵など。「生む」をこの意味で用いる場合もある。

 

しむ

 

【助動詞】[しめ|しめ|しむ|しむる|しむれ|しめよ(しめ)]動詞および一部の助動詞の未然形に付く。

使役の意を表す。…せる。…させる。

「人を感動せしむること、真なるかな」〈去来抄・先師評〉

 

む(ん)

 

【助動詞】

推量・意志・適当・勧誘・婉曲・仮定の意味をもち、四段型の活用で、活用語の未然形につく。

助動詞「む(ん)」の活用は、四段活用。 助動詞「む(ん)」は「〇・〇・む(ん)・む(ん)・め・〇」と活用する。

意志の「む(ん)」は、主語が一人称の時に多く見られる(絶対ではない)。

一人称(我など)の主語+動詞+む(ん)。

~よう」「~したい」と訳す。

 

か-な

 

【終助詞】

《接続》体言や活用語の連体形に付く。〔詠嘆〕…だなあ。
出典伊勢物語 九

「限りなく遠くも来にけるかな

[訳] この上もなく遠くまでもまあ来てしまったものだなあ

参考終助詞「か」に終助詞「な」が付いて一語化したもの。中古以降、上代の「かも」に代わって、和歌・俳句や会話文に多く用いられた。

 

作者が文語体でタイトルを書いたことで、けっこう意味を正確に説明するのが簡単ではなくなります(苦笑)

 

「生む」は、この場合、分娩を指すので「産む」と書いても良いのでしょうけれど、具体的な行為としての「産む」より、新たな生命を生み出す意味から「生」の字を使ったと思われます。

 

「しめんかな」は日常生活ではほぼ使わないので、戸惑うかもしれませんね。文法的には、使役+意志の助動詞に詠嘆の助詞がついた語です。

 

「かな」は詠嘆の助詞ですが、「絶対に」「何としても」「ぜひとも」という気持ちがこもっていると感じられますよね。

 

「生ましめんかな」は「絶対に生ましてみせよう」「何としても生ませよう」「ぜひとも生ませてあげたい」「命を懸けても生ませたい」「なんとか無事に産ませてあげたいものだ」くらいの意味にとれば良いでしょう。

 

作者である中島貞子の言葉

 

「うましめんかな」には、平和を産みましょうという気持ちもこもっているのです。

 

「暁を待たず」というのは、8月15日の平和の日を意味しています。 「産婆さん」は、8月15日の平和の日を知らずに死んでいった20万の人々なのです。

 

20万の人々が亡くなったことによって、「新しい命」、新しい広島の心が生まれたのです。

 

私たちは、広島の心、広島の願いを大事に思って、人間がいっしょになって、戦争のない、原爆のない平和な世界を作っていかなければならないと思います(長束小学校HP)

 

詩「生ましめんかな」のモデルとなった人の証言

 

この詩「生ましめんかな」には、実在のモデルさんがおられます。小嶋和子さん。ご本人の証言を以下のリンク先でお読みいただけます。

 

焦土の闇生まれた光 「生ましめんかな」モデル小嶋和子さん

 

吉永小百合さんが「生ましめんかな」を朗読

 

 

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