三船敏郎が出演した時代劇というと、黒澤明の「用心棒」と「椿三十郎」を思い浮かべる人が多いと思う。

 

だが実は、忘れてはならない、三船敏郎が主演した傑作時代劇がある。それが「」である。

 

「侍」(さむらい)は、1965年(昭和40年)に公開された日本映画。監督は岡本喜八。原作は郡司次郎正の「侍ニッポン」

 

岡本喜八の作品にしばしば登場する、伊藤雄之助も出演し、存在感を示している。

 

この映画の魅力は、その映像美にある。この場合の「美」は「きれい」という意味ではない。

 

「緊張感」「躍動感」「ダイナニズム」「品格」「深み」という言葉の方が近いのだが、あえてそれを「美」と呼びたくなるくらい、映像としての高い結晶度を示してくれている。

 

この映画はモノクロだが、光を際立てる闇の使い方が見事だ。

 

ところで、主演の三船敏郎は、どうか?

 

悪い奴らをバッタバッタと切り捨てるヒーロー役ではない。

 

深み闇を背負った、幸福から縁の薄い、自暴自棄的な陰鬱な性格の侍を演じている。

 

「侍」は人生の闇を描いた映画であり、悲劇である。

 

三船敏郎は時代劇では、勧善懲悪という安直な図式の中のヒーローという印象が強いが、「侍」では闇に閉ざされた運命に翻弄され、ついに光を手にできなかった「悲劇の男」となった。

 

小道具としては、雛人形が巧みに使われていた。この雛人形がなければ、「侍」という時代劇の評価は、私の中で下がっていたに違いない。

 

それにしても、岡持喜八という監督は、私の中で把握しきれていない。

 

血と砂」で、度肝を抜かれた記憶が消えないが、「侍」のような真っ向勝負の重厚な時代劇を撮れるとは、その手腕は半端ではない。

 

また、機会をみて、岡本喜八作品に触れてみたい。