「しあわせのパン」。三島有紀子監督の映画を初めて見ました。2012年という実に新しい映画なのですね。
まるで絵本を見ているような映画、というか、絵本を実写版で撮影した映画というふうに感じたのでした。
この映画、良いですよ。こういう作風もあってほしいし、貴重価値があるのではないでしょうか。
かなり前ですが、岩井俊二監督の映画「Love Letter」を見た時、少女マンガを実写版にした映画みたいだと感じたことを思いだしました。
「しあわせのパン」は「シネマ絵本」「メルヘン映画」とでも呼びたくなる独特の雰囲気をかもし出しています。
ラストに流れる主題歌、矢野顕子 with 忌野清志郎の「ひとつだけ」だけは良いですね。
この曲を聴きながら、センス良いなぁ~と思いました。
主演は癒し系女優の原田知世ですが、ハマリ役でしたね。相手役の大泉洋も作風とよくマッチングしていました。
舞台となったパン屋さんは実在するそうですが、絵本タッチで描かれているので、実在する、しないのリアリティは関係ないでしょうね。
映像の色調、パンの色と形、小道具、衣装、音楽にいたるまで、こだわってデザイニングされており、これらのアートワークが、この映画の中心となっています。
「映像デザインに凝り過ぎているのでは?」と見ながら何度か感じましたが、これほどまでにアートワークしなくても良く、アートはもっともっとシンプルであるべきだった気がしました。
パンもいろんな種類のものが、これでもかとばかりに多数登場しますが、もっと絞った方が、映画の深い部分に入ってゆきやすい思いましたね。
綺麗である映画よりも、シンプルで深い方が、この貴重な絵本タッチが、さらに効果を上げると感じたのは私だけでしょうか。
装飾的な部分を削ってゆき、映画の長さも30分ほど短縮すれば、もっとピュアな映画として繰り返し鑑賞できると感じた、実に惜しい映画でした。
アートワークへのこだわりに比べ、エピソードの描き方、セリフ回しなどに稚拙なところが見られ、全体のバランスが悪くなっています。
作風は良く、それだけでも貴重だけれど、物語そのものはそれほど面白くありません。
要するに、詩人が自分の言葉に酔うように、映像に酔っているようなところがあるのが、映画作品として残念なのです。
三島有紀子という人は実にセンスの良い人なので、そのセンスに酔うのではなくて、耽美的になるのではなく、ストイックでシンプルな方向に進んでくれるとありがたいですね。