星野富弘の詩画集をプレゼントされたのは、私がまだ二十代の前半の頃でした。
ひょっとすると、贈られなければ、一生、手に取ることはなかったかもしれません。
「風の旅」という星野富弘の詩画集、そこに書かれた詩には、人をハッとさせる力があります。
詩には題名がないのですが、まずは「母」とテーマにした、印象深い詩を二篇ご紹介しましょう。
淡い花は
母の色をしている
弱さと悲しみが混ざり合った
温かな
母の色をしている
母の手は菊に似ている
固く握りしめ
それでいてやわらかな
母の手は菊の花に似ている
星野富弘さんの詩の朗読(by 風花未来)はこちらでお聴きいただけますm(__)m
引用元は以下の「風の旅」です。
上の詩画集は、私がプレゼントされた当時とは異なる新装版です。
1970年、星野富弘は群馬大学を卒業し、中学校の体育教師になるが、同年6月17日、仕事(クラブ活動の指導)中の墜落事故で頸髄を損傷、手足の自由を喪失。1972年、 群馬大学病院入院中、口に筆をくわえて文や絵を書き始めました。
「風の旅」を今回読み直してみて、驚いたのです。
この詩画集に収められている詩が、すべてが際立て優れていること。これまで数多くの詩集を読んできましたが、正直、駄作も多いのです。
有名な詩に惹かれて詩集を買ったけれど、他に良い詩がほとんど見つからなかった、ということは珍しくありません。
しかし、星野富弘の「風の旅」は、すべての詩が輝いているのです。
でが、もう一篇、「愛」をテーマにした詩をご紹介します。
結婚ゆび輪はいらないといった
朝 顔を洗うとき
私の顔を きずつけないように
体を持ち上げるとき
私が痛くないように
結婚ゆび輪はいらないといった
今、レースのカーテンをつきぬけてくる
朝陽の中で
私の許(もと)に来たあなたが
洗面器から冷たい水をすくっている
その十本の指先から
金よりも 銀よりも
美しい雫が 落ちている