今回は中村草田男の俳句を鑑賞してみます。
日本の現代俳句について、私はこのブログ「美しい言葉」ではほとんど語ってきませんでした。
どうしても、自由詩が多くなってしまう。しかし、実は、現代俳句は決して、日本の近代詩に負けてないと思うことがあるのです。
やはり、この人、中村草田男の存在は大きいでしょう。 この記事の続きを読む
今回は柴田トヨの「貯金」という詩をご紹介。
貯金
私ね 人から
やさしさを貰ったら
心に貯金をしておくの
さびしくなった時には
それを引き出して
元気になる
あなたも 今から
積んでおきなさい
年金より
いいわよ
100歳の詩人として有名な柴田トヨさん。詩作を始めたのは92歳というから凄いですね。
「もう若くないから、今さら詩作なんて?」と尻込みしている人には、柴田トヨさんの存在は励みとなるでしょう。
柴田トヨは、1911年(明治44年)6月26日に生まれ、2013年(平成25年)1月20日に死去。栃木県栃木市出身。
一人息子の勧めで書きためた詩を2009年(平成21年)10月に自費出版。
2011年(平成23年)9月、満100歳を迎えたことを記念して、第2詩集『百歳』が出版されました。
同年10月10日(午後6:10〜45)、NHK総合が『“不幸の津波に負けないで”〜100歳の詩人 柴田トヨ〜』(ナレーション:若尾文子)が放映。著者の綴った詩を心の支えに、東日本大震災を乗り越え強く生きようとしている被災者たちの姿を中心に描いて話題に。
2012年(平成24年)8月の時点で、詩集『くじけないで』が160万部を記録。
詩集で160万部も売れたことって、他に例があるんでしょうか?
柴田トヨさんの詩は、いずれも極めて簡明。「ゆったり、ゆっくり」暮らすことの大切さを、さりげない温かな言葉で伝えてくれています。
今回は島崎藤村の「初恋」という詩をご紹介。
初恋
まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり
やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に
人こひ初めしはじめなり
わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃を
君が情に酌みしかな
林檎畑の樹の下に
おのづからなる細道は
誰が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ
純愛をうたった詩は、案外少ない。少ない上に、その中で詩として優れた作品はもっと少なく、極めて貴重です。
島崎藤村の「初恋」は、その意味で、日本近代文学の尊い財産と言えるでしょう。
詩が四つの連で構成される場合、第三連では「転調」されます。つまり、詩の調子が変るのです。
この「初恋」も、三番目の連で、ハッとするような変化を示します。
島崎藤村と恋する女性との距離が、接近する。ためいきが髪の毛にかかるほど、二人の恋は匂い立っているのです。
島崎藤村の代表作は、どれもこれも、極めて技巧的であり、文学的であります。
七五調の詩が多いので、技巧に目がいきにくいのですが、精緻を凝らして言葉を構成していることが注意深く分析すると明らかになります。