今回は中村草田男の俳句を鑑賞してみます。
日本の現代俳句について、私はこのブログ「美しい言葉」ではほとんど語ってきませんでした。
どうしても、自由詩が多くなってしまう。しかし、実は、現代俳句は決して、日本の近代詩に負けてないと思うことがあるのです。
やはり、この人、中村草田男の存在は大きいでしょう。
降る雪や明治は遠くなりにけり
何と言っても、この句が有名です。雪の降る日、小学校の校庭で赤い半纏を来て遊んでいる子供たちを眺めている時の感興を、中村草田男は俳句にしたと言われています。
雪の降る日は、確かに、時の感覚が通常とは異なってしまいますね。
雪を眺めていると、ほんの数秒間に何十年もの年月が流れるのを感じてしまう、そんなことはよくあるもの。
私は明治という時代を知りません。大正も知らない。
おそらくは、昭和とはだいぶ趣を異にしているであろうことは想像できます。
昭和より文明化が進んでいないから、より懐かしい、ふるさとの匂いが、明治という言葉から立ちのぼってくるのです。
ともあれ、「〇〇は遠くなりにけり」は、万人に共通の思いであり、しみじみとした情緒に浸ることができますね。
萬緑(ばんりょく)の中や吾子の歯生え初むる
「万緑」という言葉が実に効いていますね。他の言葉に置き換えたら、この句の力強さが出ません。
圧倒的でさえある生命力が伝わってくる、まさに名句であります。
焼跡に遺る三和土(たたき)や手毬つく
暴力と破壊の象徴である「焼跡」と、無垢と平和の象徴である「手毬」の対比が見事。
また、わずかなスペースである三和土を使って、手毬をつく、生命のたくましさをも表現しえていて、秀句であるとしか言いようがありません。