今回はヴィム・ヴェンダース監督の映画「パリ、テキサス」をご紹介しましょう。

パリ、テキサス

1984年仏=西独映画。
監督:ヴィム・ヴェンダース。
脚本:サム・シェパード。
音楽:ライ・クーダー。
出演:ハリー・ディーン・スタントン、ナスターシャ・キンスキーほか。

いろんな発見があった。

これはロード・ムービーであり、心理劇でもある。
明るい場面と暗い場面との対比(照明を落としたシーンが多い)、やるせない音楽、主人公の男のかたまった表情などが作り上げた微妙な世界は、練り上げられた脚本がなければ、その場から瓦解してしまう。

こういう地味な作品こそ、技術的に高度なものが要求されること。
少しでも演出をしくっじったら、臭くて見れたものではないだろう。

小説でいうところの説話の順序が、いかに大切か。

少しずつ男の謎が明かされるとともに、男が変化してゆく様を細密に描いている。

ともすれば退屈しそうな内容だが、ディテールの積み重ねと、センスのいい演出で、視聴者を引っ張ってゆく。

ハリウッドのエンタテイメント方程式のような明確な分割は難しいが、明らかにここにも享受者を飽きさせない、意図する世界に見る者を引きずり込んで放さないテクニックが、物の見事に機能している。

■映画「パリ、テキサス」表現(鑑賞)のポイント

1)謎の解明は少しずつ。いっぺんには見せない、語らない。

2)明と暗を効果的に使う。

3)人物の登場させ方、再会などを劇的に描く。

4)シーンごとにアイデアを入れる。キラリと光るもので、シーンを生かす。

5)抑制した表現で、世界を深める。心理の内側を見せる。

6)エンディングは、すみやかに。

7)ナスターシャの2回出てくる回転シーン、1回は8ミリの中で、2回目は子供と再会し抱き合う時、が効いている。

8)演出は慌てない。見る者を必ず待たせてから見せる。すぐに感情を爆発させない。

9)主人公の男に気取りが少しもない。ケレンミを感じさせないテイストとマッチングしている。ハードボイルド的なカッコよさから程遠い存在だが、魅力的に描けている。

10)日本人には作れないだろうなあという感じ。懐の深さと品格、志の高さが、作者或いは作品に、普段着のように見に付いている。気負いなく、美が普通になっている。

最後に、ナスターシャが少ししか出てこないが、これも監督の美意識なのだろう。抑制こそ美徳であるとヴェンダースは言っているようだ。彼女の美しさを知り抜いているからこそ、それを開放しないのである。あくまで主人公は男なのだ。そこが、たまらなくいい。

[欠点] もし欠点があるとするなら、長すぎるセリフにあるのではないか。この監督のリズムと言えばそれまでだが、冗長な会話はテンポを悪くするだけでなく、聞き取りにくいという欠点もある。