北原白秋の「接吻」という詩をご紹介します。
「日本の名作詩ベスト100」の企画で、北原白秋の作品を取り上げるのは初めてです。
この詩は、成人向けかもしれませんので、未成年の方は、閲覧注意かもしれません。
では、さっそく、引用してみましょう。
接吻
臭のふかき女きて
身體(からだ)も熱くすりよりぬ。
そのときそばの車百合
赤く逆上(のぼ)せて、きらきらと
蜻蛉動かず、風吹かず。
後退(あとし)ざりつつ恐るれば
汗ばみし手はまた強く
つと抱き上げて接吻(くちず)けぬ。
くるしさ、つらさ、なつかしさ、
草は萎れて、きりぎりす
暑き夕日にはねかへる。
いかがでしょうか。かなり、刺激的ですよね。
以下の「あめふり」という童謡の歌詞を書いたのも北原白秋なのです。
あめあめ ふれふれ かあさんが
じゃのめで おむかい うれしいな
ピッチピッチ チャップチャップ
ランランラン
「接吻」と「あめふり」、とても同じ作者の作品とは思えませんよね。
もちろん、こういうことは他には類例がないというわけではないですが、北原白秋は、そういう多面的な詩人であることは知っておいて良いと思います。
それはさておき、今回の「接吻」ですが、野外での性交を詩にしている、この大胆さにまず注目。
感覚に訴える表現が、官能を高めている。
臭(嗅覚)
熱くすりより(触覚)
車百合赤く(視覚)
五感の中で、もっとも原始的といわれる「触覚」を駆使した言葉が多いのも特徴です。
また、以下の三行が、欲情をそそる。
後退(あとし)ざりつつ恐るれば
汗ばみし手はまた強く
つと抱き上げて接吻(くちず)けぬ。
詩というとロマンチックな純愛を想起しがちですが、こうした官能の世界も詩作品になるうることを、北原白秋は客観的な視点と卓越した技巧によって、証明してくれているのです。
それにしても、紙一重で、卑俗なエロに堕落せず、芸術的なエロスの表現になっている……つまり、その紙一重の危うい感じが、この「接吻」という詩の魅力となっている確かでしょう。
「くるしさ、つらさ、なつかしさ」とあるから、若年期の記憶を詩にしたもの。