映画「我等の生涯の最良の年」を見終わってから、作品の時間を見てビックリした。
2時間49分。信じられない。もっと短く感じた。長さがまったく苦にならない映画である。
「我等の生涯の最良の年」の原題は「The Best Years of Our Lives」。1946年に製作、公開されたアメリカ合衆国の映画である。監督はアメリカ映画界を代表する名匠である、ウィリアム・ワイラー。
ウィリアム・ワイラー監督の代表作は「嵐ヶ丘」「ローマの休日」「ベン・ハー」「コレクター」など。
「我等の生涯の最良の年」を見るのは初めてだが、ちゅうちょなく、ウィリアム・ワイラー監督の最高傑作だと断言したいと思った。
その証拠となるかは別として、当時のアカデミー賞最多記録となる9部門を受賞している。
映画が人にとって「希望」であった時代の名作。
この「我等の生涯の最良の年」で忘れてならないのは、1946年に制作されたということ。
つまり、第二次世界大戦が終わった次の年に作られたのである。
戦勝国であるアメリカも、さすがに戦闘の爪痕が、人々の暮らしに濃い影を落としている。
悲惨な戦争を引きずりながらも、復員し、日常生活に戻ってゆく3人の帰還兵の様子を、温かな視点から鮮明に描きだしている。
厳しい現実をリアルに描いた映画ではなく、戦争で傷ついた人たちを励ます、ヒューマンドラマとして作成された映画です。
このハートウォーミングな物語が、戦後、多くの人たちに希望を与えた映画であったろうことは、想像に難くない。
実際に、トーキーになってからの映画の興行成績としても「風と共に去りぬ」以来の第2位を記録している。
男女7人の描いた群像劇であり、一流の心理劇でもある。
では、何ゆえに、私はこの「我等の生涯の最良の年」を、ウィリアム・ワイラー監督の最高傑作と評価したのだろうか。
まずあげるべきは、男女7人が織りなす群像劇を見事に描き切っていること。
誰が主役なのかわからないほど、7人それぞれが生き生きと描かれてる。
この手法は、日本のドラマにも応用されているようだ。
「金曜日の妻たちへ」「男女7人恋物語」などは、「我等の生涯の最良の年」を娯楽作品として描いたのではないかと想像してくなる。
優れた群像劇であると同時に、もう一つ要素も指摘したい。
それは、心理劇としても見ごたえ充分だということ。
それは、ドラマを鑑賞する時の最大の醍醐味である、登場人物の心の変化である。
映画が始まった直後とラストでは、それぞれの人物がまるで違っている。心理の襞を繊細に、かといって繊細になりすぎず、鮮やかに、品格も持って描いている手腕は並大抵のものではない。
その意味で「我等の生涯の最良の年」は、心理劇の秀作とも言える。
同じく、ウィリアム・ワイラー監督の映画に「ミニヴァー夫人」があるが、これは戦時下の物語。
「我等の生涯の最良の年」と比較すると興味深いだろう。
テレサ・ライトの上品な美しさと笑顔が印象的。
役者たちの演技は、それぞれが際立っているが、その中でも、ダナ・アンドリュースと恋に落ちる、テレサ・ライトの美しさだ。
とてつもない美人ではないが、さりげなく滲み出る精神的な気品、そして陰影に富んだ表情の豊かさは、第一級の女優と評すべきだろう。