もう紙の本は買うまいと誓ったのですが、どうしても気になったので、戸川幸夫の「爪王(つめおう)」をアマゾンで注文してしまいました。
本が届いたので、さっそく、読了。
感想は一言に尽きます。「ぜひ、この小説を読んでください」、そう叫びたい。
鷹匠と鷹との交流を描いているのですが、特筆すべきは、現代文学が、いや、現代社会が忘れ去ろうとしている極めて大事な真実が、活写されていることです。
この小説の中に込められた、感傷を排した深い運命愛に、魂レベルで共振できた、そのことに感謝したい。
緊張感のある文体は研ぎ澄まされ、鋭利な刃物をほうふつとさせるとともに、時おり挿入される自然描写は、神々しいまでに輝いていました。
描写に感傷という名の曇りがなく、厳しい自然界の掟(おきて)をリアルに映し出している、同時に、背後に生命愛が伏流水のようにあふれているからこそ、「爪王」の世界を、人は愛おしく感じるのでしょう。
この本には、読みやすくするために、豊富な注釈がつけられています。この得難い名作を読み継ぎ、語り継いでゆくための定本と呼んで良いかと思います。
「爪王」にある、厳しい修練、無言の愛から、明日への希望を見い出せる予感がする、そう言いたい気持ちを、おさえかねているところです。