草野心平の「青イ花」という詩をご紹介します。
青イ花
トテモキレイナ花。
イッパイデス。
イイニホヒ。イッパイ。
オモイクラヰ。
オ母サン。
ボク。
カヘリマセン。
沼ノ水口ノ。
アスコノオモダカノネモトカラ。
ボク。トンダラ。
ヘビノ眼ヒカッタ。
ボクソレカラ。
忘レチャッタ。
オ母サン。
サヨナラ。
大キナ青イ花モエテマス。
「蛇に睨まれた蛙」という言葉を想い出せば、この「青イ花」という詩の状況はすぐに理解できるでしょう。
死を覚悟した、幼い蛙は、母親に向かって声にならない声で呼びかけます。
青い花がいっぱいに咲いている、むせかえるほどの濃厚な匂いを放っていて、もえているようです、「ボク。カエリマセン」「サヨナラ」。
カタカナを多用し、視覚と嗅覚に強く訴える手法が、効果を上げている。
本当に子どもの蛙になって、感じ、思っているように、リアルに伝わってくる。
「生と死」を、子供の蛙の舌っ足らずな話言葉が、哀しくも美しい。