TBSドラマ「想い出づくり。」は、1981年9月18日から12月25日にかけて放送されました。脚本は山田太一です。

 

かなり古いドラマですが、日本のトレンディドラマはこの作品から始まったという話を、何かの本で読んだことがありました。

 

当ブログでは、山田太一ドラマについて、何度か語っています。

 

山田太一ドラマの感想をこちらでまとめてみましたので、ぜひ、ご覧ください。

 

「岸辺のアルバム」は日本のテレビドラマの最高傑作との評価もあります。しかし、「想い出づくり。」の評価をこれまで読んだことがありませんでした。

 

私自身、今回の鑑賞が初めて。これまでに何度か見ようとして、きっかけがつかめなかったのです。山田太一のドラマは万が一面白いと感じなくても、セリフだけでも勉強になるので、とりあえず、この機会に見てみようと思ったのでした。

 

それが、見始めたら止まりません。2日間で、全14話を見きってしまいました。

 

連続ドラマの全話を一気に見るということは、もうないのではないかと思っていましたから、それをかなえてくれたことでも、「想い出づくり。」に感謝したいのです。

 

正直、これほどまでにレベルが高いドラマだとは思いませんでした。これは傑作です。なぜ「岸辺のアルバム」ほど高く評価されていないか、その理由もわかりました。

24歳の3人の女性たちが主人公。森昌子古手川祐子田中裕子が熱演。当時は適齢期だった女性の恋愛や結婚がテーマですから、その後のトレンディドラマと似た設定となっているのです。

 

そのため、後からブームとなるトレンディドラマに大きな影響を与えたことも当然でしょう。

 

しかし、今回観たところでは、単なるトレンディドラマではありません。いわゆる「恋の椅子取りゲーム」的なドラマではないのです。

 

ホームドラマの要素とトレンディドラマの要素が、絶妙にブレンドされた作品と言えるでしょう。

 

レベルが高いというのは、部分ではなく、トータルの評価です。

 

全くタイプの違う3人の女性とその家族たちの人物設定と配置。読めそうで読めない意外な物語展開。

 

そして、山田太一独特の「セリフまわし」も健在ですが、いつもよりも理屈っぽさは抑えられ、時代の空気をみずみずしいく伝えてくれています。

 

全14話ですが、ありがちな中だるみが全くありません。構成と人物造形が優れているせいでしょうけれど、ドラマの魅力という魅力が、ぎっしり全編に詰まっており、結果としてテレビドラマの面白さの集大成みたいになっています。

 

役者も、ぞれぞれが、本当に「いい味」、出してます。

 

特筆に価するのは、田中裕子の父親役を演じた佐藤慶。森昌子の母親役の坂本スミ子。この2人の存在感だけでも、充分に楽しめるほどです。

 

さらには、小手川祐子と田中裕子がいいのは当然ですが、意外に森昌子が侮り難し。森昌子の相手役の加藤健一が最後まで効きまくっていました。

 

キャラが立っているなどという生やさしい表現では言い尽くせないほど、登場人物の造形が際立っています。これだけ個性が強い人物が集まっているのに、作品としては、一つにまとまっていて、心地よく個性が響き合っている点も素晴らしい。

 

このドラマが作られたのが1981年。それだけに、今見れば、古いと感じるところがたくさんあります。しかし、逆に言いますと、1981年という時代の急所を突いているとも言えます。

 

2012年の今、あの3人のような女性はいません。でも、深いところ、根底的な部分にある、人間の哀しさ・寂しさ・愛おしさまで、山田太一はえぐり出しているので、今見ても、存分に楽しめるのです。

 

時代の流れとともに、完全に消えてしまった思えることもあります。人間は30年くらいで、こうも変わってしまうものなのか……それを感じるだけでも、言葉をしばし失ってしまいました。

 

変わっていないのは、人は独りでは生きられないこと、そして愛すべき存在であることでしょうか。

 

ドラマのツボを押さえているということは、イコール、人間の心のツボを押さえていることでもあります。この「想い出づくり。」は、人間の心の急所をついてくるドラマである点で、永久に古びないと思うのです。