喜劇王であるチャールズ・チャップリンが自伝を執筆中に、くじけそうになると、ベートーヴェンの交響曲を聴いて、自らを励ましていたそうです。
あのチャップリン自伝はおそろしく長いですからね。執筆のプロではないチャップリンが、あの自伝を書き上げるのは容易ではなかったでしょう。
人はそれぞれ、苦しい時に接することで自らを鼓舞する芸術作品を持っているのではないでしょうか。
私自身も、心身ともに憔悴しきってしまうことがあります。
そんな自分を励ましたいと思って、最近見た映画があります。それは、黒澤明監督の「七人の侍」です。
心が疲れた時に、これほどよく効く映画を他に私は知りません。
黒澤明が生涯をかけて語ろうとしたことのほとんどすべてが、この「七人の侍」には込められています。
この映画「七人の侍」を見ると「明日もまた生きてみよう。自分なりに力を尽くしてみよう」と思い、体の芯からパワーが湧いてくるのです。
難しい映画評論など必要なく、この映画の持つ単純な力こそ、私には尊いのだと思えてなりません。
ただ、この映画のテーマを一言で言い表すとしたら「運命愛」ということになるでしょう。
黒澤明が敬愛したドストエフスキーの小説世界がそうであるように、ヒューマニズムの結末は必ず悲劇を招きます。
そうした悲劇をも含めて愛しきる魂の姿勢が「運命愛」だと思うのです。
また、この「運命愛」という言葉こそ、今の私を勇気づけてくれる言葉も、他にはないと感じています。