ホ・ジノ監督の映画「きみに微笑む雨」を見た感想

前回に続き、ホ・ジノ監督作品を取り上げます。

 

きみに微笑む雨

 

今回は、ホ・ジノの精髄に、どっぷりと浸ることができました。

 

「きみに微笑む雨」

2009年11月14日公開。中国&韓国合作。

監督は「八月のクリスマス」「四月の雪」のホ・ジノ。

主演は「私の頭の中の消しゴム」のチョン・ウソン。

相手役の女優は「プロジェクトBB」のカオ・ユアンユアン。

内容:アメリカ留学中に知り合った韓国人のドンハと中国人のメイは、四川省の成都で10年ぶりに再会する。かつて互いに恋心を抱いていたふたりは、当時の淡い感情を取り戻していくが…。 (引用元:「キネマ旬報社」データベース)

 

映画「きみに微笑む雨」はこちらで視聴可能です

 

ホ・ジノにかかると、光も、風も、雨も、人のため息さえも、詩に変えられてしまう。

 

本当にこれほどデリケートに、自然とか、動物とか、人間とか、植物とかに反応する感性は……この監督ならではのものですね。

 

というか、こういう感覚は誰にでもあるのだけれど、それを映画という形式で、表現できる人が稀有なだけなのでしょうね。

 

ホ・ジノは、実に雨の描き方が卓抜なのですが、今回も、雨が、とても繊細に活用されています。それと、風が、絶妙のタイミングで強調されていて、思わず息をのんでしまったほどです。

 

陽光の使い方も、こだわっていますね。それらの自然のゆらめきが、登場人物の心理の揺れと共振していて、観る者の心を波立たせます。

 

この映画もまた、ホ・ジノ監督らしく、恋愛映画を超えた愛のドラマです。

ホ・ジノ監督の「八月のクリスマス」を見た感想

昨日の深夜、久しぶりに鑑賞したのが、ホ・ジノ監督の映画「八月のクリスマス」。

 

私がこれまで観た韓国映画の中で、ベスト1にあげたいほどの傑作です。というか、これこそ長く語り継がれるべき名作映画だと思います。

 

映画「八月のクリスマス」はこちらで視聴可能です

 

 『八月のクリスマス』(はちがつのクリスマス)は、1998年、製作および公開された韓国映画である。

 

ホ・ジノの初監督作品。

静かな小都市で「草原写真館」を経営する青年のユ・ジョンウォン(ハン・ソッキュ)と、駐車取締員のキム・タリム(シム・ウナ)の静かな愛の物語が描かれる。

2005年、日本で『8月のクリスマス』としてリメイクされている(引用元:ウィキペディア)。

 

最初に確認しておきたいことは、この映画は世界中で乱発されつづけるパターン化した純愛映画とは、全く異次元の作品であること。

 

商業的な要素はまったくと言っていいほどなく、制作者の純粋な制作者魂を最初から最後まで感じられる極めて珍しい秀作です。

 

さて、気になるのは「八月のクリスマス」というタイトル。クリスマスは普通は12月ですが、なぜ、八月なのか?

 

それについては、ホ・ジノ監督自身が、インタビューで説明しています。

 

質問1(男性)

ラストシーンはクリスマスの日だったと思うのですが、なぜこの映画は『8月のクリスマス』というタイトルなのですか?

 

ホ・ジノ

ラストシーンはクリスマスの日という設定です。クリスマスツリーも画面に出ていたのですが、あまりに小さいのでお気づきにならなかった方も多いと思います。

なぜタイトルが『8月のクリスマス』なのかということについてお答えします。

 

私達は日常生きていく過程において悲しみを感じたり、ある時は笑ったり、そういった相反する2つの感情のぶつかり合いの中で日常を生きていると思います。

 

そういった意味をこめて「8月」という夏の明るいイメージと「クリスマス」という冬のイメージを持つ単語を2つ合わせた時の印象が非常によかったので、これを題名にしてみました。

(引用元:Cinema Korea

 

それに、主人公が8月生まれという設定なので、そのこととも引っ掛けているのでしょうね。

 

さて、この映画、何から語ったらいいのでしょうか。

 

語りだしたらきりがないほど、美点にあふれています。

 

最初に観たときには、人間の生と死をこれほど静かに描ききった映画はあるだろうか、と感嘆しました。

 

そして、今回見なおしてみて、思ったのは「時間と距離」についてです。

 

主人公は死も間近にひかえた人間です。そのために、時間というものを愛おしみます。

 

過去・現在・未来という時間の流れ、主人公には未来はほとんど残されていないのだけれど、満身で時間を感じようとしている姿が美しい。

 

次に「距離」についてです。

 

主人公とヒロインとの距離の取り方が微妙ですよね。

 

窓辺からヒロインを見つめる印象的なシーンがありますが、この距離、近いようで離れている、遠いようど近しい、

こうした人と人との距離の描き方そのものが映像作品としての格調をかもしだしていました。

 

ホ・ジノ監督は映像の詩人です。

 

DVDの画質は悪いのですが、そんなことが気にならないくらい、シーンから詩情があふれてくる。詩的というのと、感傷的というのとは少し違うのですね。

 

今回再び鑑賞して思ったのは、ただ映像がキレイというだけではなく、映画という表現形式をたいへん深いところで理解している監督だなぁということでした。

 

具体的に言いますと、長回しのシーンがけっこうあります。長回(ながまわ)しというのは、カットせずに長い間カメラを回し続ける映画の技法ことです。

 

ホ・ジノ監督の場合、セリフもなく、動きもないまま、人物を撮り続けるのですね。こういうシーンはよほど描き出すテーマが決まってないと、また描ききる自信がないと撮れるものではありません。

 

人物のアクションや会話があれば視聴者はついてきてくれますが、動きのない長回しは失敗したら悲惨なわけです。動きや会話がなくても、観るものを引きつけ続けられるシーンが「八月のクリスマス」にはいくつもありました。

 

そんなわけで、ホ・ジノ監督の映画は、これからも、すべて観てゆきたいと思っています。

ホ・ジノ監督の韓国映画「春の日は過ぎゆく」を見た感想

私が最も敬愛する映画監督の一人、ホ・ジノの作品をご紹介しましょう。

 

今回取り上げるのは「春の日は過ぎゆく」です。

 

春の日は過ぎゆく

 

2001年 韓国・日・香港

監督: ホ・ジノ

出演: ユ・ジテ/イ・ヨンエ/パク・インファン/ペク・ソンヒ/ペク・チョンハク

 

録音技師の青年と、DJ兼プロデューサーでバツイチの年上女性との切ない愛を描くラブストーリー。

繊細で美しい映像が好評を博した前作『八月のクリスマス』のホ・ジノ監督による2作目。

韓国スター、ユ・ジテとイ・ヨンエが共演している(引用元:「キネマ旬報社」データベース)。

 

ホ・ジノ監督の第二作目。

 

春の日は過ぎゆく」はこちらで視聴できます

 

音に関わる職業の青年は実に繊細でいい。

眼を閉じ、耳を澄ませてごらん、心の声が聞こえてくるから、と語っているような映画だ。

 

ラストシーンは素晴らしい。見渡すかぎりの麦畑、背景に一本の樹。川が流れている。

監督の理想とする世界が描かれているようだ。

 

「八月のクリスマス」を見た時、この監督は小津安二郎が好きなのではと感じたが、最近見た小津の「麦秋」のラストが、「春の日は過ぎゆく」と余りにも似ていて驚いた。

小津は最後まで清らかな世界を「麦秋」で描ききったが、ホ・ジノは二作目にして、少しトーンダウンした感はいなめなかった。

 

「八月のクリスマス」と比べてしまうと、やはり商業的な要素がはいってしまっている。その分、純度は落ちている。男女間の描き方が、俗っぽいところがあり、残念。

 

もともとが無垢な世界観が魅力の監督だと思うので、あまり商業的なものに振り回されずに、小津のオマージュを続けて欲しいと切に願う。

 

これほど、映像感覚の優れた監督は滅多にいないと感じるからである。それほど前作の「八月のクリスマス」は良かった。

 

少し批判的になってしまったが、それだけ、ホ・ジノ監督への期待が大きいからだ。

現在、世界で最も美しい映像を撮れる映画監督ではないだろうか。