太平洋戦争で戦死した人の詩として、どうしても語り継いでゆきたいのが、竹内浩三さんの「骨のうたう」です。
こういう詩は理屈は不要なので、さっそくご紹介しましょう。
骨のうたう
戦死やあはれ
兵隊の死ぬるやあはれ
とほい他国で ひょんと死ぬるや
だまって だれもいないところで
ひょんと死ぬるや
ふるさとの風や
こいびとの眼や
ひょんと消ゆるや
国のため
大君のため
死んでしまうや
その心や苔いぢらしや あはれや兵隊の死ぬるや
こらへきれないさびしさや
なかず 咆えず ひたすら 銃を持つ
白い箱にて 故国をながめる
音もなく なにもない 骨
帰っては きましたけれど
故国の人のよそよそしさや
自分の事務や女のみだしなみが大切で
骨を愛する人もなし
骨は骨として 勲章をもらひ
高く崇められ ほまれは高し
なれど 骨は骨 骨はききたかった
絶大な愛情のひびきをききたかった
それはなかった
がらがらどんどん事務と常識が流れていた
骨は骨として崇められた
骨は チンチン音を立てて粉になったああ 戦死やあはれ
故国の風は 骨を吹きとばした
故国は発展にいそがしかった
女は 化粧にいそがしかった
なんにもないところで
骨は なんにもなしになった
一般に知られている「骨のうたう」は、親友たちが補作したものだそうです。今回引用した詩は自ら「伊勢文学」という同人誌に発表したもので、これがオリジナル版だとのこと。
特記すべきは、上のオリジナル版は、竹内浩三が入隊前に書いているということ。つまり、戦後という未来を予見し、それを詩にしたのです。
2008年、NHKで放送された「ハイビジョン特集 シリーズ青春が終わった日 日本が見えない~戦時下の詩と夢・竹内浩三~」で、竹内浩三という名を初めて知ったという人も多いかもしれませんね。
お盆休み中に、戦没者の詩を読むのも良いかと思います。
こちらは、竹内浩三の入門書と言えるでしょう⇒戦死やあわれ (岩波現代文庫)
この詩をご存知ですか⇒日本語で書かれた美しい詩ベスト1
太平洋戦争(1941年12月8日から大日本帝国政府が降伏文書に調印した1945年9月2日まで)については、今後、繰り返し記事をアップしてゆく予定です。
憲法改正によって軍国主義が復活するという極端な話をしたいのではありません。ただ、これからをより豊かに暮らすにはどうしたら良いのかについて考える時、1945年に終結した戦争のことを振り返ることは有益だと思うのです。
戦後68年が過ぎ、今後も便利さの追求や経済発展だけを目指していたのでは、決して幸福な生活は得られないのではないでしょうか。
アジアでは近代化が早かった日本。しかし、それは早いだけのことであって、いずれは追いつかれる運命にあったのです。
近代化の途上で、日本人が生み出した文化には目をみはるものがあります。多くの人たちが、忘れ去ろうとしている、宝の一つが「詩」です。
この「美しい言葉」では、これからも、心の糧となってくれる、詩をご紹介してゆきますので、どうぞ、ご期待ください。